分子生物学実験

エタノール沈殿の原理と条件の最適化【核酸の濃縮・脱塩】

  • エタノール沈殿ってなに?
  • エタノール沈殿ってなんのために行うの?
  • エタノール沈殿は具体的にどうやればいいの?
  • エタノール沈殿に必要なものを知りたい
  • エタノール沈殿で核酸を効率よく回収できる方法を知りたい

こんな疑問を持っている人に向けて、エタノール沈殿の基礎を解説します。

「ぜんぜんエタノール沈殿についてわからない」人もこの記事を読み終わるころには、「なるほど!」とエタノール沈殿に対する理解が深まると思います。

この記事では以下のことについて解説します。

  • エタノール沈殿の目的
  • エタノール沈殿の原理
  • エタノール沈殿のプロトコル
  • エタノール沈殿の条件の最適化
  • エタノール沈殿で使う試薬の調製方法

エタノール沈殿とは

エタノール沈殿とは核酸(DNA、RNA)を精製、濃縮する方法です。核酸をエタノールと塩で凝集させて沈殿を得ることにより行います。

何のために行うのか

エタノール沈殿を行う理由は大きく以下の2つになります。

  • 精製(バッファー置換)
  • 濃縮

エタノール沈殿では核酸が沈殿するときに塩類は沈殿してこないため、核酸溶液中の塩類を取り除くことができます。

例えば、余計な塩が入ったバッファーに核酸を溶かしていても、エタノール沈殿後に水や好みのバッファーなどに溶かし、容易にバッファーを置換することができます。

またこの時、少ない量(例えば10 μL)の水やバッファーで核酸を溶解することで核酸溶液を濃縮することが可能です。

エタノール沈殿の概略図

原理

核酸は極性を持つため、水には溶けますがエタノールには溶けません。

しかし核酸溶液にエタノールを加えるだけでは沈殿ができにくいです。

これは核酸中のリン酸基が負電荷を持っていて核酸分子同士が反発することで凝集しにくいことが原因となっているからです。

そこでナトリウム塩などの塩を加えリン酸基の負電荷を中和しすることで、核酸が凝集しやすくなるため、エタノール溶液中で沈殿を形成することができるようになります。

これがエタノール沈殿の原理です。

エタノール沈殿の原理

一般的な方法プロトコル見本

一般的なプロトコルは以下の通りです。

これは一例なので、それぞれのサンプルに応じてプロトコルを改良してみてください。

本記事では核酸の長さ別に各工程の最適条件を紹介しているので改良の参考にしてください。

プロトコル

  1. 核酸溶液の体積を見積もる
  2. 核酸溶液の1/10量の3 M酢酸ナトリウムを加える
  3. 核酸溶液の2.5倍量の100%エタノールを加える
  4. よく混和する(転倒混和やVortex)
  5. 室温で15分程度静置する
  6. 遠心, 4℃, 13,000 rpm, 10分
  7. 上清を除去する
  8. 70%エタノールを1 mL加える
  9. 遠心, 4℃, 13,000 rpm, 10分
  10. 上清を除去する
  11. 沈殿を乾燥させる
  12. 沈殿を精製水あるいはTEバッファーで溶解する

条件の最適化

エタノール沈殿のプロトコルは研究室によって異なっていて、実に色々な方法が使われています。

ここでは論文を参考に、核酸の回収率を向上させるための最適条件を紹介します。

核酸の長さによって最適条件が異なるので以下の3種類の長さの核酸について解説します。

  • 短い一本鎖の核酸(20 nt)
  • 中程度の二本鎖DNA(150 bp)
  • 長い二本鎖DNA(10 kbp)

最適化させる条件は以下の5つの項目です。

  • インキュベーションの温度と時間
  • 遠心の回転数と時間
  • アルコールの種類と使用量
  • 塩の種類
  • 共沈剤の使用

インキュベーション

核酸溶液にエタノールと塩を加えた後のインキュベーションでは様々な条件で行われます。

例えば温度は室温・4℃・-20℃・-80℃、時間は0分~一晩と幅広い条件が使用されています。

下記の表は様々なインキュベーション条件における核酸の回収効率を表しています。

赤字の部分がおすすめの条件です。参考にしてください。

各インキュベーション条件における核酸の回収効率(%)
-80℃室温4℃-20℃4℃-20℃
0分5分15分15分2時間一晩一晩
長(10kbp)75557570706075
中(150bp)25102525303535
短(20nt)60606060457070

 

それぞれの条件について以下で簡単に説明をしていきます。

 

長い二本鎖DNA(10 kbp)

長い二本鎖DNAではインキュベーション条件はDNAの回収率にほとんど影響を与えません。

-80℃で5分インキュベーションした場合のみDNAの回収率が減少しますが、他のインキュベーション条件ではDNAの回収率は変わりません。

従って長い核酸を使っているときはインキュベーションなしで次の工程に移っても問題ありません。

 

短い一本鎖DNA(20 nt)と中程度の二本鎖DNA(150 bp)

短い一本鎖DNAと中程度の二本鎖DNAはどちらも-20℃で一晩インキュベーションする条件が最も回収率が高いという結果になっています。

そのため時間に余裕がある場合は-20℃で一晩インキュベーションを行ってください。

早く実験を行いたい場合は中程度の二本鎖DNAの場合は-20℃で2時間の条件で、短い一本鎖DNAの場合は-80℃で5分以外の条件でインキュベーションすることで、ある程度の回収率を維持して実験を行うことができます。

遠心

核酸を沈殿させるための遠心では遠心力遠心時間によって回収効率が変化します。

以下で説明をします。

 

遠心力

短い核酸を使用する場合は遠心力を大きくすることで回収効率が増加します。

一方で長~中程度の長さの核酸の場合は遠心力を7,500 x g以上に上げてもほとんど回収効率は変わりませんが、若干回収効率が向上します。

以上より、遠心力を大きく設定することで核酸を効率よく回収することができます。

各遠心力における核酸の回収効率(%)
7,500 x g12,000 x g18,000 x g21,000 x g
長(10kbp)73767680
中(150bp)31313537
短(20nt)51617174

 

遠心時間

遠心力に比べて、遠心時間はほとんど核酸の回収効率には影響しません

それでも遠心時間を延ばすことで若干回収効率が増加するので、少しでも多くの核酸を得たいという人は遠心時間を延ばしてみてください。

各遠心時間における核酸の回収効率(%)
10分20分30分60分
長(10kbp)77797983
中(150bp)37374244
短(20nt)73757680

アルコール

核酸を沈殿させるときのアルコールにはエタノールあるいはイソプロパノールが使われます。

エタノールを使う場合は核酸溶液に対して2.5倍量の100%エタノールを加えるのが一般的な方法です。

イソプロパノールはエタノールに比べて疎水性が高いため、エタノールよりも少ない量のイソプロパノールの使用で核酸を沈殿させることができます。

基本的には核酸溶液と等量のイソプロパノールを加えます。

ただしイソプロパノールはエタノールと比べて揮発しにくい塩類の共沈を起こしやすいので注意が必要です。

そこで、最後の乾燥処理をしっかり行いイソプロパノールが残存しないようにする、洗浄の回数を増やす、洗浄をしっかり行うなど工夫が必要です。

 

それでは核酸の回収効率を高めるためにはエタノールとイソプロパノールどちらを使用するのがよいのでしょうか。

エタノールを2倍、3倍、4倍量加えたときと、イソプロパノールを0.5倍、0.75倍、1倍量加えたときの回収効率が以下の表となります。

各アルコール使用条件における核酸の回収効率(%)
エタノールイソプロパノール
x2x3x4x0.5x0.75x1
長(10kbp)737876476877
中(150bp)474243244539
短(20nt)598085164260

最も回収効率が高いのはエタノールを加えたときで、長~中の核酸の場合はエタノール量は2倍量で充分なのに対して、短い核酸の場合はエタノールを3倍量まで増やすことで格段に回収効率が向上しています。

また核酸溶液が多くて、エタノールを多く加えられないときには、イソプロパノールを等量加えることでもある程度の回収効率を保つことができます。

エタノール沈殿でよく使用する塩には以下の5つがあります。

  • 酢酸ナトリウム
  • 酢酸アンモニウム
  • 塩化リチウム
  • 塩化ナトリウム
  • 塩化マグネシウム

ここでは5つの塩の使い分けのポイントを解説します。

酢酸ナトリウム

最も一般的に使われる塩です。

3 Mの酢酸ナトリウム(pH=5.2)を核酸溶液の1/10量加えて、最終濃度が0.3 Mになるように使用します。

酢酸アンモニウム

dNTPの溶解度が高いため、反応に使われなかった余剰のdNTPを取り除く目的で使われます。

リガーゼ(ligase)やキナーゼ(kinase)や一部の制限酵素がアンモニウムイオンで阻害されるため注意が必要となります。

10 Mの酢酸アンモニウムを核酸溶液の1/4量加えて、最終濃度が2.5 Mになるように使用します。

塩化リチウム

塩化リチウムはエタノールに溶けやすいため核酸と一緒に沈殿(共沈)することがほとんどありません。

そのためRNAの濃縮など高濃度でのエタノールを用いる時に使われます。塩化物イオンは逆転写反応を阻害するため、逆転写に用いるsampleには適していません

塩化ナトリウム

SDSを可溶化することができるため、溶液中のSDSを取り除くために使われます。

塩も共沈するため70%エタノールでの洗浄をしっかり行う必用があります。

塩化マグネシウム

塩化マグネシウムを用いると7塩基以上の核酸を沈殿させることができるため、短い核酸を用いる場合は塩化マグネシウムを使用することがあります。

ただしdNTPも沈殿することもあるので注意が必要です。

塩化マグネシウムは最終濃度が0.01 Mとなるように加えます。

 

参考論文では酢酸ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸アンモニウムを使用した時の核酸の回収効率を調べています。

長い核酸と短い核酸の場合は酢酸ナトリウムを使用したとき、中程度の核酸の場合は塩化マグネシウムを使用したときが、回収効率が最も高くなっています。

各種塩を使用したときにおける核酸の回収効率(%)
酢酸ナトリウム塩化マグネシウム酢酸アンモニウム
長(10kbp)797360
中(150bp)596355
短(20nt)888352

キャリア(共沈剤)

核酸の量が少ない場合にエタノール沈殿を行っても沈殿はできますが、沈殿が目視で確認できないことも多く、作業中に誤って核酸を捨ててしまうリスクがあります。

また量が少ないsampleでは核酸の回収率も低くなってしまいます。

この問題を解消するためにキャリア(共沈剤)が使われます。

キャリアはエタノール沈殿によって核酸と共に共沈するため、キャリアを使うことで沈殿の目視が容易になり、核酸の回収率も高くなります。

グリコーゲンアクリルアミドが代表的なキャリアとして使われます。

市販品のキャリアもあるのでぜひ試してみてください。

試薬調製法

エタノール沈殿に使用する試薬の調製方法を紹介します。

ぜひ参考にしてください。

3 M酢酸ナトリウム(pH=5.2)

DNAのエタノール沈殿ではpH=7.0、RNAのエタノール沈殿ではpH=5.2の酢酸ナトリウムを使用しますが、DNAのエタノール沈殿でもpH=5.2の酢酸ナトリウムで問題なくエタノール沈殿を行うことができます。

そのためここではpH=5.2の酢酸ナトリウムの調製方法を紹介します。

必要な試薬

  • 酢酸ナトリウム無水物【CH3COONa】(Mw=82.03)あるいは 酢酸ナトリウム三水和物【CH3COONa・3H2O】(Mw=136.08)
  • 酢酸
  • ミリQ

手順(100 mL調製用)

  1. ミリQ(約80 mL)に酢酸ナトリウム無水物24.6 gあるいは酢酸ナトリウム三水和物40.8 gを溶解させる
  2. 酢酸を加えてpHを5.2にする(約11.4 mLの酢酸が必要)
  3. ミリQを加えて100 mLにメスアップする
  4. 必要に応じてオートクレーブ処理を行う

1 M塩化マグネシウム

必要な試薬

  • 塩化マグネシウム六水和物【MgCl2・6H2O】(Mw=203.30)
  • ミリQ

手順(100 mL調製用)

  1. ミリQ(約80 mL)に塩化マグネシウム六水和物20.3gを溶解させる
  2. ミリQを加えて100 mLにメスアップする
  3. 滅菌が必要な場合はフィルターろ過を行う
    *オートクレーブ処理により塩化マグネシウムが析出することがあるため

10 M酢酸アンモニウム

必要な試薬

  • 酢酸アンモニウム【CH3COONH4】(Mw=77.08)
  • ミリQ

手順(100 mL調製用)

  1. ミリQ(約80 mL)に酢酸アンモニウム77 gを溶解させる
  2. ミリQを加えて100 mLにメスアップする
  3. 滅菌が必要な場合はフィルターろ過を行う

エタノール沈殿後

エタノール沈殿が終わったら、どれくらいの量の核酸が得られたのか、核酸のクオリティーのに問題がないかを調べます。

量とクオリティーは吸光度測定電気泳動で調べることができます。

しっかり勉強をしたいという人は以下の記事を参考にしてくださいね。

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