エイブリーの実験は、グリフィスの実験によって発見された形質転換を起こす物質を解明するために1944年に行われた実験です。
エイブリーの実験では肺炎双球菌を使ってタンパク質とDNAどちらが形質転換を起こす物質(遺伝子)であるかを示した研究で、世界で初めて遺伝子の本体がDNAであることが解明されました。
エイブリーの実験以前にはタンパク質が遺伝子の本体だと考えられていたため、エイブリーのDNAが遺伝子の本体であるという主張はなかなか受け入れられませんでした。
しかしその後のハーシーとチェイスの実験やワトソン・クリックによるDNAの二重らせん構造の解明によって、DNAが遺伝子の本体であることが受け入れられていきました。
エイブリーの実験は遺伝子の本体がDNAであることを示した非常に重要な実験です。実験をしたことがない人には分かりづらい点もあると思うので、この記事ではイラストを使ってできるだけ分かりやすく解説をしていきます。
グリフィスの研究を知らない人は、先にこちらの記事で勉強するとエイブリーの実験がより理解しやすくなります。

エイブリーとは


オズワルド・エイブリー
(Wikipediaより引用)
エイブリーの実験はその名の通り、実験者であるオズワルド・エイブリーの名前に由来しています。エイブリーではなくアベリーと呼ばれることもあります。
エイブリーは1877年~1955年まで生きており、医師や医学研究者としてロックフェラー研究所で多くの成果を残しました。
エイブリーの実験はノーベル賞受賞にふさわしい研究でしたが、ノーベル賞を受賞することはできませんでした。
エイブリーの主な受賞歴としては、コプリ・メダル(1945年)、アルバート・ラスカー基礎医学研究賞(1947年)、パサノ賞(1949年)の受賞が挙げられます。
エイブリーの実験の目的
グリフィスの実験によって形質転換という現象が発見されました。
形質転換
細胞外から特定の物質が細胞内に入り込み、細胞の遺伝的性質を変えること
グリフィスは肺炎双球菌を使って形質転換によってR型菌がS型菌に変化することを発見しましたが、形質転換を起こす物質が具体的には何であるかを突き止めることはできませんでした。


このためエイブリーは形質転換を起こす因子を解明するために、エイブリーの実験を行いました。
このエイブリーの実験によって形質転換を起こす物質がDNAであることが証明されました。
実験方法と結果
エイブリーはS型菌をすりつぶして、S型菌が持つ成分を細胞から抽出して、抽出した成分の中のどの物質が形質転換を起こすかを調べました。
ここからはタンパク質とDNAの2つに絞って説明をしていきます。
S型菌をすりつぶして得られた抽出液には、タンパク質とDNAの両方が含まれています(実際には他の物質も含まれています)。
この抽出液をR型菌と混ぜて培養(飼育する)とR型菌の一部は形質転換を起こしS型菌になります。この結果からS型菌の抽出液の中に形質転換を起こす物質が含まれることがわかりますが、タンパク質とDNAどちらが大事かはわかりません。


そこで抽出液の成分をタンパク質とDNAそれぞれにだけにして、どちらが形質転換を起こすか調べることで、抽出液に含まれるタンパク質とDNAのどちらが大事であるかがわかります。
タンパク質とDNAのどちらが大事かを知るために、アベリーはタンパク質分解酵素とDNA分解酵素をS型菌の抽出液に加えました。
タンパク質分解酵素とはタンパク質を分解し(バラバラにして壊し)、DNA分解酵素はDNAを分解します。
タンパク質分解酵素はDNAを分解することはできず、同じようにDNA分解酵素はタンパク質を分解することができません。
- タンパク質分解酵素: タンパク質を分解する(タンパク質がなくなる)
- DNA分解酵素: DNAを分解する(DNAがなくなる)


従って、S型菌の抽出液にタンパク質分解酵素を入れるとタンパク質が分解されるので、DNAだけが残ります。逆にS型菌の抽出液にDNA分解酵素を入れるとタンパク質だけが残ります。
こうしてS型菌から抽出したDNAとタンパク質をそれぞれ得ることができます。
- S型菌から抽出したDNA(S型菌の抽出液にタンパク質分解酵素を加えたもの)
- S型菌から抽出したタンパク質(S型菌の抽出液にDNA分解酵素を加えたもの)


そしてS型菌から抽出したDNAとタンパク質をそれぞれR型菌と混ぜて培養した結果、DNAを混ぜたときにはR型菌の一部がS型菌に形質転換し、タンパク質を混ぜた場合には形質転換が起きないことがわかりました。
- S型菌から抽出したDNAとR型菌を混ぜて培養:
R型菌の一部がS型菌に形質転換した - S型菌から抽出したタンパク質とR型菌を混ぜて培養:
R型菌のままだった(S型菌には形質転換しなかった)
つまりDNAが形質転換を起こす物質であることがわかり、遺伝的の本体がDNAであることが明らかとなりました。


実験の意義
エイブリーの実験によって遺伝子の本体がDNAであることが世界で初めて明らかになりました。
しかしこの時代では、遺伝子の本体はタンパク質であると信じられていたため、遺伝子の本体がDNAであること認められるまでには時間がかかりました。
実際に1952年のハーシーとチェイスの実験により遺伝子の本体がDNAであることが認められるようになっていきました。
ハーシーとチェイスの実験の解説はこちらの記事をご覧ください。



関連書籍
![]() ![]() ![]() | ルネ・ジュ-ル・デュボス/田沼靖一 小学館 1998年12月10日頃 売り上げランキング :
|
画像利用
タンパク質の4次元構造:統合TV