こんにちは。Hiro(@THiro70217938)といいます。
細胞培養歴9年で大学で助教をしています。
この記事では、細胞培養の基礎を解説していきます。
- 細胞培養初心者でも大丈夫なように
- 出来るだけわかりやすく
- 幅広く網羅的に
- 細胞培養の基礎知識を紹介していきます
培養初心者の方のよくある疑問もこの記事で解決していきますね。
- 細胞培養って何をするの?
- 実際の操作の方法や使うものを教えてほしい
- よく起きるトラブルにはどんなものがある?
- 実際に培養細胞を使ってどんな研究ができるの?
細胞培養とは: どんなことをするのか、どんなことができるのか
そもそも「細胞培養」って何だろうと思っている人に向けて簡単に説明します。
細胞培養とはどんなことをするのか
細胞培養とは一言でいうと、私たちの体を構成している「細胞を体の外で育てること」です。
私たちの体は37兆個の細胞でできていますが、このうち特定の細胞だけを実験室で育てて、細胞の機能や薬の効果などを調べるのです。
細胞が生きるためには栄養が必要なので適切な栄養が入った培地を使って細胞を培養します。
また微生物が混入すると、培地の栄養を使って繁殖し細胞に悪影響を与えるので、細胞培養には無菌操作が必要不可欠です。
細胞培養は何のためにするのか
どうして細胞培養を行う必要があるのでしょうか。
それは培養細胞を使うことで、マウスやヒトを使うよりシンプルな実験を行うことができるからです。
1つ例をあげて考えてみましょう。
がん細胞を殺す薬をつくりたいときに、Aという薬の効果を試すとします。
マウスにAを投与して効果があった場合、Aが直接がん細胞に作用したのか、免疫細胞の効果を高めて間接的にがん細胞に影響したのかはわかりません。
一方でがん細胞だけを培養してAを処理したときに効果があれば、薬Aが直接がん細胞に作用することを示すことができるのです。
これが培養細胞を使って実験をするメリットです。
培養細胞と実験動物の使い分けやメリット・デメリットの比較の詳細を勉強したい人は「細胞培養を行う目的とは?【培養細胞と実験動物の使い分け】」で詳しく解説しているので参考にしてください。図解付きで具体例も紹介しています。

培養細胞の種類
培養細胞には多くの種類が存在します。
大きく分けると
- どの組織の細胞を使うのか
- 初代培養細胞と株化細胞どちらを使うのか
を考えて実験をすることになります。
どの組織の細胞を使うのかはイメージしやすいと思います。現在ではさまざまな組織の細胞を培養することができるので、目的の細胞を選んで実験してください。
初代培養細胞と株化細胞ですが「なんだそれ?」と思っている人も多いのではないでしょうか。
初代培養細胞は簡単に言うと、動物から採取し直接使う細胞のことをさします。
初代培養細胞を使うメリットは生体内の細胞の状態に近いことです。
株化細胞は、動物から採取した細胞を変化させ無限に増殖ができるようになった細胞のことです。
株化細胞のメリットは使いやすいことですが、生体内の細胞の状態とは異なることが多いです。
初代培養細胞と株化細胞のメリットとデメリットを見極めてどちらを使うかを選ぶ必要があります。
初代培養細胞と株化細胞について詳しく知りたい人は「初代培養細胞と株化細胞はなにが違うの?」を読んでみてください。



細胞培養に必要なもの
それでは実際に細胞培養を行うために必要なものを見ていきましょう。
細胞の入手方法
まずは培養するための細胞が必要となります。
株化細胞を使う場合は、研究室で必要な細胞を保有していることが多いので、研究室に細胞が保管されているかを調べましょう。
必要な細胞が研究室にない場合には
ことで細胞を入手することができます。
初代培養細胞を使う場合は、マウスなどの動物から使うたびに細胞を得る必要があります。
必要な動物を入手して初代培養細胞を準備しましょう。
細胞培養に必要な機器
細胞培養に必要な機器は以下の2つです。
- 安全キャビネットあるいはクリーンベンチ
- CO2インキュベーター
安全キャビネット・クリーンベンチ
安全キャビネットやクリーンベンチは無菌操作を行うために使います。
無菌操作のみを目的とする場合はクリーンベンチを使い、ウイルスなど実験者に害のあるものを扱う場合は安全キャビネットを使います。
CO2インキュベーター
CO2インキュベーターは細胞を37℃、CO2濃度5%という細胞にとって適する条件で培養するために使います。
37℃は私たちの体温と同じで細胞の酵素が働きやすい温度です。
CO2濃度を5%にする理由は培地のpHを中性に保つためです。
CO2インキュベーターを使うとなぜ培地のpHが保たれるかを知りたい人は「細胞培養時のCO2濃度はなぜ5%なのか」をぜひ読んでみてください。



細胞培養に必要な試薬
細胞培養に使用する基本的な試薬は以下の3つです。
- 培地
- PBS
- トリプシン
培地
培地は培養している細胞を浸す液です。
培地に細胞の生存や増殖に必須の栄養や成分が含まれています。
色々な培地が販売されているので、使用する細胞に適した培地を購入して使うことになります。
培地にはFBSと抗生物質を添加して使うことが多いです。
FBSは細胞を増殖させるために加えます。FBSをいれていない培地では細胞は増殖できません。
抗生物質は微生物のコンタミネーションを防ぐために加えます。
*コンタミネーション(コンタミ):汚染を意味する英語
FBSについて詳細を知りたい人はこちらの記事をどうぞ。



PBS
PBSはリン酸緩衝液のことです。
pHが中性付近に保たれる等張液であるため、細胞にダメージを与えないことが特徴です。
培地の洗浄に主に使われます。
トリプシン
トリプシンはタンパク質を分解する酵素の一種です。
トリプシンは培養細胞をディッシュやフラスコからはがすために使われます。トリプシンとあわせてEDTAもよく使用されます。
トリプシンの使用方法や細胞がはがれる原理を勉強したい人は「培養細胞の継代方法を解説」を見てください。
細胞培養に必要な道具
細胞培養にはピペット・チューブ・培養容器を使います。
これらの道具には微生物のコンタミを防ぐために、滅菌されたものを使う必要があります。
この中で培養容器にはデッシュ・フラスコ・プレートといった多くの種類があり、またいろいろなサイズもあるため、使う細胞の種類や必要な細胞数に合わせて適切なものを選ぶことが重要です。
培養操作の種類と方法・解説
起こす
凍結保存されている細胞を解凍して使える状態にすることを「細胞を起こす」といいます。
これは温めて細胞を解凍するだけなので、特に難しくはありません。
解凍直後の細胞は少し弱っているため、慎重に培養を行いましょう。
継代
継代とは増殖した細胞の一部を回収して別の容器に移しかえる作業のことです。
細胞が増殖して容器いっぱいになると、細胞同士の接触・栄養の不足・老廃物の蓄積により増殖が停止し、やがては死んでしまいます。
そのため適切な密度で細胞を維持し、細胞を元気な状態に保つために継代が必要となります。
容器に張り付いている「付着細胞」の継代は培地に浮いている「浮遊細胞」に比べて難しいため、慣れが必要になります。
付着細胞の継代の方法を知りたい人は「培養細胞の継代方法を解説」を読んでください。



凍結保存
株化細胞は凍結保存をすることで半永久的に保存をすることが可能です。
凍結保存した細胞は前述したように解凍して起こすことで再度利用することができます。
細胞を何も考えずに凍結すると死んでしまうので注意してください。
DMSOを添加した培地や細胞凍結保存液セルバンカーに細胞を懸濁し、バイセル 凍結処理容器を用いて凍結する方法が一般的によく使われます。
培養細胞の凍結保存のプロトコルやメリット・注意点は「細胞の凍結保存とは 【細胞の凍結保存の方法やポイントを解説します】」で解説しています。



細胞培養のトラブル
ここでは、初心者が陥りやすいトラブルであるコンタミネーションについて解説します。
コンタミネーション
コンタミネーションとはコンタミとも略され、細胞培養においては微生物による汚染を指すことがほとんどです。
操作に慣れていないときには、コンタミが起きて細胞が使えなくなってしまうことがあります。
細菌・酵母・カビのコンタミは顕微鏡で観察をして見つけることができます。
細胞とは違うものが培地中に現れてくるので、見慣れないものを見つけた場合にはコンタミを疑って先輩や先生に報告をしましょう。
またコンタミが進んでくると培地の色が黄色に変化するので、日ごろから培養の色もチェックしておきましょう。
コンタミの原因と見分け方は「細胞培養でのコンタミの原因と見分け方」にまとめてあります。
コンタミで一番やっかいなのはマイコプラズマによる汚染です。
マイコプラズマは非常に小さく顕微鏡で見ることができません。
「見た目ではコンタミが確認できないけど細胞の増殖が悪い」ときにはマイコプラズマのコンタミを疑ったほうがいいかもしれません。
マイコプラズマはPCRなどの手法によって検出することができます。
マイコプラズマの検出方法や除去方法も「細胞培養でのコンタミの原因と見分け方」で解説をしています。



培養細胞を使った研究手法の具体例
ここでは培養細胞を使って行うことができる研究をいくつかピックアップして解説します。
増殖アッセイ
これは培養細胞の増殖スピードを調べる実験です。
細胞を回収して血球計算盤で細胞数を数えることで細胞数を調べて、どのくらい細胞が増殖したかがわかります。
細菌ではWST-1試薬などを使うことで簡単に細胞数を調べることもできます。
増殖アッセイでは、細胞の増殖に必要な物質を探したり、がん細胞の増殖を抑える薬を調べることができます。
遺伝子導入
遺伝子導入とは細胞に人工の遺伝子を強制的に導入することで、導入した遺伝子の機能を調べるために行われます。
興味のある遺伝子を細胞に導入して細胞の性質がどう変化するのかを調べたり、変異した遺伝子を導入して変異がもたらす影響を調べたりします。
遺伝子導入を使って、細胞が持っている遺伝をなくしたり減らすことも可能です。
遺伝導入にはLipofectamine3000といった試薬を使って行うリポフェクション法(脂質の小胞を利用して細胞内に遺伝子を輸送する方法)やエレクトロポレーション法といった電気刺激で一時的に細胞膜に穴をあけて遺伝子を取り込ませる方法が使われます。
ライブイメージング
カメラを使って培養細胞をリアルタイムで撮影し、細胞がどのように振る舞うかを調べる方法です。細胞分裂の過程や細胞が移動する様子を観察することができます。
さらに遺伝子導入と組み合わせると、特定のタンパク質の細胞中での挙動を調べることもできます。
いくつかムービーのリンクを用意しているので興味がある人はご覧ください。
細胞培養の勉強におすすめの書籍
書籍
細胞培養初心者向けのおすすめ本を厳選1冊だけ紹介します。
先ずはこれだけ読めばOKです!
羊土社の『改訂 細胞培養入門ノート』です。
1999年に作られ、何度も改良を加えられ多くの人が読んでいる良書です。
8度の増刷を重ねた大好評書がついに改訂!豊富な写真と細胞培養のスペシャリストによる丁寧な解説で,操作の意味をきちんと理解しながら培養の基本技術が身につきます!初学者だけでなく指導用にも最適の一冊!
羊土社HPより引用
イラストや写真が豊富に収録されていて、細胞培養初心者に必要な、「無菌操作」、「継代」、「細胞の正確なまき方」、に加えて「培養室のメンテナンス法」、「器具・試薬の準備法」、「細胞の管理方法」などが解説されています。
初心者から長く使えるので、何か細胞培養の勉強に使える本が欲しいという人にはおすすめの一冊です。
この本を読みこめば細胞培養の基礎で迷うことはなくなります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
細胞培養はかなり奥が深いですが、ここで書いた内容が基礎になるのでぜひしっかり理解してくださいね。
この記事がみなさんの勉強のお役に立てれば嬉しいです。
みなさんの研究がいい方向に進むことを心から願っています。
わかりにくかったことや、解説して欲しい内容があればぜひコメントしてくださいね。