- 継代のプロトコルがわからない
- 継代って何をすればいいの?何が必要なの?
この記事では、細胞培養を始めたけど「まだ継代に慣れていない」、「次の継代までに復習したいな」と思っている人や、「これから細胞培養をはじめる」といった人向けの記事です。
この記事を読むことで以下の内容がわかります。
- 継代に必要な試薬
- 継代の手順・方法
- トリプシン使用時の注意点
- 血球計算盤を使った細胞数の数え方と計算方法
こちらの動画もシンプルでわかりやすいので、事前に動画でイメージをつかんで記事を読むことで知識の定着が促進されます。
参考動画:Gibco 初代細胞培養の基礎
用意する試薬
- PBS(-) *オートクレーブ済みのもの
- トリプシン-EDTA
- 培地(medium) *FBSや抗生物質を添加したもの
細胞培養でFBSを使う理由と非働化の意義について - トリパンブルー(必要なひとだけ)
継代操作
- 試薬を室温に戻しておく
- 顕微鏡により細胞の状態を観察する
*80~90%コンフルエントがのぞましい - 容器(ディッシュやフラスコ)から培地を除去する
容器を傾け、細胞に触れないように作業を行う - PBS(-)を加えて容器に残った培地を洗い、PBS(-)を除去する
*2回行う
*PBS(-)による洗浄が不十分だと、トリプシンの作用が弱くなるためしっかり洗浄する - トリプシン-EDTAを加えてインキュベートする
*トリプシン-EDTAは細胞表面が浸るくらいの量で十分 - 顕微鏡で細胞が丸くなりはがれているかを確認する
*2~10分が目安(細胞種によってことなる)
*インキュベート時間が長くなると細胞に悪影響がでるため、はがれたらすぐ次の操作に移ること - 軽く容器をタッピングし細胞をはがす
- FBS入りの培地を加え、ピペッティングにより細胞を完全にはがし均一に分散させる
*FBSによってトリプシンの反応が止まるので、必ずFBS入りの培地を使うこと - 細胞懸濁液を新しいtubeに移し遠心する(1000 rpm, 3~5分程度)
- 適量の培地で細胞を懸濁する
- 細胞数を計測する
*トリパンブルーを使うことで死細胞を見分けることができる(青い細胞=死細胞) - 新しい容器に培地と細胞を適量加える
*細胞数は細胞種によって異なる - 容器を揺らし細胞を均一にする
- 顕微鏡で細胞が均一になっていることを確認する
- CO2インキュベーター内で次回継代まで細胞を飼育する
トリプシン処理の解説
ここではトリプシンの役割や使うときの注意点を解説します。
トリプシンは細胞を剥離するのに非常に便利なのですが、正しく使わないと細胞にダメージを与えてしまうこともあります。
トリプシンについて正しく理解して継代作業を行ってください。
トリプシンの役割
トリプシンはプロテアーゼ(タンパク質を分解する酵素)の1種です。
トリプシンは多くの種類のタンパク質を分解することができます。
継代の時にはディッシュに接着するのに使っているタンパク質や、細胞同士の接着に必要なタンパク質をトリプシンが分解することで細胞がはがれるのです。
具体的には
・インテグリン:ディッシュの接着に重要なタンパク質
・カドヘリン:細胞同士の接着に重要タンパク質
が分解されているのです。

トリプシンについて詳しく知りたい人はこちら(外部リンク)
インテグリンやカドヘリンについて詳しく知りたい人はこちら(外部リンク)
EDTAの役割
トリプシンと一緒にEDTAを使っている人も多いのではないでしょうか。
EDTAとはエチレンジアミン四酢酸のことでCa2+やMg2+のような二価の金属イオンをキレートする化合物です。
先ほど説明したインテグリンとカドヘリンはCa2+やMg2+が存在することで細胞をディッシュや他の細胞と接着させることができます。
そのためトリプシンとEDTAを一緒に使うことで効率よく細胞をはがせるのです。
トリプシンを使うときの注意点
トリプシンを使う注意点を「トリプシンを効果的に作用させるためのポイント」と「細胞にダメージを与えないためのポイント」の2つに分けて紹介します。
トリプシンを効果的に作用させるためのポイント
トリプシンを効果的に作用させるためのポイントは
- トリプシンを加える前の洗浄をしっかり行う
- 洗浄に使うバッファーにはCa2+やMg2+を含まないものを使う
この2つです。
理由を説明しますね。
細胞の培養に使う培地はFBSに代表される血清を添加して使います。
血清の中にはトリプシンインヒビターというトリプシンの機能を阻害する物質が入っているので、しっかり洗浄をして血清を除去しておかないとトリプシンが上手く働かずに細胞がはがれません。
興味がある人は一度洗浄をせずにトリプシンを加えてみてください。全く細胞がはがれないことがわかると思います。
次に洗浄にCa2+やMg2+を含まないバッファーを使う理由を説明します。
これはCa2+やMg2+がインテグリンやカドヘリンによる細胞の接着を強めるためです。
インテグリンやカドヘリンの機能を弱めることで細胞をはがすので、Ca2+やMg2+が含まれていると細胞がはがれにくくなってしまうのです。
細胞にダメージを与えないためのポイント
トリプシンは細胞をはがすのに便利なのですが、正しく使わないと細胞がダメージを受けてしまい実験が上手くいかなくなってしまいます。
トリプシンは多くのタンパク質を分解するため、必要以上に作用させることにより細胞の生存に重要なタンパク質も分解されてしまい細胞がダメージを受けるのです。
細胞のダメージを防ぐ方法が以下の2つです。
- トリプシンを処理したあとに細胞のようすを観察し、細胞がはがれたらすぐに次の工程にうつる
- 細胞がはがれたら、血清入りの培地かトリプシンインヒビターを加える
理由を説明します。
素早く次の工程に移るのは、トリプシンが長く作用すればするほど細胞がダメージを受けるため、必要最低限の時間で済むようにするためです。
必要最低限の時間を見極めるために、慣れるまではしっかり細胞のようすを観察するようにしましょう。
血清入りの培地やトリプシンインヒビターを入れるのは、その後の工程中にトリプシンが働くのを抑えるためです。
血清にはトリプシンインヒビターが含まれているので、血清入りの培地を入れるか直接トリプシンインヒビターをいれます。
血清を直接入れるとコストが高くなりすぎるため、培地で薄めた血清を使います。少しでも血清が含まれていたらトリプシンを抑えるのには十分です。
以上が理由になります。トリプシン反応後に培地を入れるのはトリプシンを薄めるためだと思っていた人も多いのではないのでしょうか。重要なのはトリプシンインヒビターなので、血清が入っていない培養を加えてもほとんど意味がありません。
血球計算盤を使った細胞数カウント
次に回収した細胞数を血球計算盤を使って算出します。
血球計算盤をを使った細胞数のカウント方法は「血球計算盤を使った細胞数の数え方【図解・具体例あり】を参考にしてください。
血球計算盤で数えた細胞数を使って以下の計算式により懸濁液中の細胞密度を算出することができます。
細胞密度 = 数えた細胞数の平均 × 104 (cells / mL)
試薬調整法
PBS(-)
1 L調整時
- リン酸二水素カリウム(KH2PO4)0.2 g
- リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)1.15 g
あるいはリン酸水素二ナトリウム12水和物(Na2HPO4・H2O) 2.90 g - 塩化カリウム(KCl) 0.2 g
- 塩化ナトリウム(NaCl) 8 g
トリプシン-EDTA
0.25%トリプシン + 1mM EDTA/PBS(-)の作り方
- 4℃でトリプシン2.5 gとEDTA-2Na 0.37 gをPBS(-) 1 Lに溶かす。
*溶けにくいため少し時間がかかる。 - 0.2 µmのフィルターでろ過する。
*トリプシンは酵素なのでオートクレーブはできない。 - 適度な量に分注する。
- -30℃にて保存する。
- 一度使用したものは4℃で保存する。1ヶ月くらいで使いきること
調整済みトリプシン
比較的安価に調整済みのトリプシン溶液も手に入るので、こちらを使ってもよいかと思います。
参考動画
細胞培養テクニカル動画(YouTube)3:57からご視聴ください
汎用細胞株情報まとめ
汎用細胞の情報をまとめました(RIKENへのリンクです)。
細胞培養時の参考としてお使いください。
- A549(ヒト肺癌細胞)
- C2C12(マウス筋芽細胞)
- COS7(アフリカミドリザル腎細胞)
- HEK293(ヒト胎児腎細胞)
- HEK293T(ヒト胎児腎細胞)
- HeLa(ヒト子宮頸部がん細胞)
- HepG2(ヒト肝癌細胞)
- NB2a(Neuro2A)(マウス神経芽細胞腫)
- NIH 3T3(マウス線維芽細胞様細胞)
- PC-12(ラット副腎髄質褐色腫)
- RAW264(マウスマクロファージ様細胞)
- RBL2H3(ラット好塩基性白血病細胞由来)
関連記事
細胞培養の基礎知識全般を抑えたい人は「【細胞培養初心者向け】細胞培養の基礎知識を解説!」をご覧ください。
