実験手法解説

細胞培養を行う目的とは?【培養細胞と実験動物の使い分け】

・細胞培養ってなんのために行うの?

・培養細胞を使うとどんなことを調べることができるの?

・動物実験と細胞実験はどう使い分けるの?

こんにちは。大学で助教をしているHiro(@THiro70217938)といいます。細胞培養歴は9年です。

実験を始めたばかりの人は「細胞を使った実験とマウスを使った実験があるけどなにが違うの?」、「結局細胞実験ではなにがわかるの?」と思うことが多いかと思います。細胞実験は「細かいことを調べるのが得意」というメリットと「生体内で起きている現象とは違うかもしれない」というデメリットをもっています。

この記事では、細胞実験と動物実験の違いをメリットとデメリットを比較しながら解説します。また、抗がん剤研究を例に挙げて、具体的にどのような違いがあるのかや細胞実験と動物実験を組合わせることの意義を解説します。

細胞培養実験とは

細胞培養とは、マウスやヒトなどの生体」から単離(採取)してきた細胞を生体外で飼うことをさします。

単一の細胞を使用することができるので、「シンプルな実験を行える」、「細かいメカニズムを調べることができる」などのメリットがあります。一方で「生体内の状態を正確に反映できない」といったデメリットも存在します。

以下で詳細を解説していきます。

培養細胞作製までの概念図

*マウスのイラストは「統合TV」のものを使用

動物実験と細胞実験の使い分け

動物を使った実験と培養細胞を使った実験は、それぞれメリットとデメリットがあるので、研究目的によってどちらを採用するかを判断する必要があります。

それでは動物実験と細胞実験の特徴を見ていきましょう。

培養細胞と実験動物の比較

培養細胞を使った実験は「細かいことを調べるのが得意」、「楽に使える」デメリットは「体の中で起きる現象とは異なる可能性がある」という特徴があります。

動物実験は「体の中で起きることを正確に調べることができる」、「細かいことを調べるのが難しい」、「準備に時間がかかる」といった特徴があります。

培養細胞と実験動物を使った実験の特徴の比較

*マウスのイラストは「統合TV」のものを使用

培養細胞を使った実験の特徴

培養細胞を使った実験の特徴を細かく見ていきましょう。

培養細胞を使った実験のメリットとしては「個々の細胞への影響を調べることができる」、「詳細なメカニズムを調べることが得意」、「薬の処理や遺伝子操作がしやすい」、「備が楽にできる」が挙げられます。

デメリットとしては「生体の状態が反映できるとは限らない」、「細胞の性質が変化している可能性がある」が考えられます。

個々の細胞への影響を調べることができる

基本的に細胞実験では一種類の細胞のみを利用して実験を行うので、目的としている細胞のみを解析することができます。そのため他の細胞からの受ける影響を気にすることなく、個々の細胞への影響を調べることが可能となります。

薬の処理や遺伝子操作がしやすい

培養細胞への薬剤や遺伝子の処理は、実験動物への処理に比べるとかなり簡単に行えます。

薬剤は培地に溶かして細胞に添加するだけですし、遺伝子操作もいろいろなメーカーから優れた試薬が販売されているので実験初心者でも簡単に行うことができます。

備が楽にできる

培養細胞の準備は細胞の種類にもよりますが、楽な場合が多いです。

細胞株を使う場合は、使いたい細胞を研究室で保持していれば1-2週間以内に実験を行うことができます。さらに一度準備してしまえば繰り返し長期間使用できるのです。

初代培養細胞を使う場合は細胞株よりは時間がかかりますが、1ヶ月程度あれば実験を始められることが多いです。

どちらにしてもマウスを繁殖させるのに比べると早く実験を行うことができます。

「細胞株」や「初代培養細胞」ってなに?と思った人は「初代培養細胞と株化細胞はなにが違うの?」で解説しているので読んでみてください。

生体の状態が反映できるとは限らない

培養細胞は動物から単離した細胞を人工的な培地・環境で飼育しています。そのため培養細胞が生体内に存在する細胞と全く同じ挙動を示す保証はありません。

さらに生体内では複数の細胞が影響しあっていますが、培養細胞では複数細胞間の伝達が起きないため、生体内とは状態が異なっている可能性を考慮する必要があります。

細胞の性質が変化している可能性がある

細胞の性質が変化している可能性は、細胞株を使う場合には特に注意しないといけません。

細胞株は無限増殖能をもっています。無限増殖能は細胞が変異・がん化したことにより獲得されるものです。つまり必然的に生体内の細胞とは細胞株のもつ性質は異なるのです。

培養細胞で得られた結果は、動物実験により検証することが重要となります。

実験動物を使った実験の特徴

実験動物を使う場合の特徴は「生体への影響を直接調べることができる」、「詳細なメカニズムを調べるのが難しい」、「実験動物の準備に時間がかかる」です。

生体への影響を直接調べることができる

マウスやヒトなどの生体を使って検証をするので、実際に生体内でなにが起きているのか調べることができます

例えば治験で「実際にヒトに薬が効くのか」や「副作用が出ないのか」を調べることができるわけですね。

詳細なメカニズムを調べるのが難しい

デメリットの1つとして、詳細なメカニズムを調べるのが難しいことが挙げられます。

生体内には複数の臓器や様々な種類の細胞が存在しています。そのため、生体反応や病気の原因、薬が効果を示す要因を突き止めるのは難しいです。

最近では技術が発展しているため動物実験でも詳細を調べることができますが、細胞実験と比べると生体内で起きる現象は複雑でどうしても細かいメカニズムを突き止めるのが難しくなります。

実験動物の準備に時間がかかる

実験動物の準備は細胞実験と比べるとかなり長い時間と労力が必要になります。

マウスを例に考えてみます。

マウスを新たに得ようとすると、妊娠~出産に3週間必要です。さらに生まれてからマウスが大人になるのには2ヶ月かかります。つまり大人のマウスを使おうと思うと、単純計算で3ヶ月の準備が必要となります。

具体例による培養細胞と実験動物の比較

ここまでの説明で「具体的にあまりイメージできない」という人向けに一例をあげて培養細胞と実験動物の比較をしていきます。

ここでは抗がん剤の研究を例にあげて、ごく簡単に説明していきます。

マウスを使った抗がん剤研究

先ずマウスを使った場合を考えてみましょう。

抗がん剤候補となる薬が実際に効果を示すのかを調べてみましょう。実験は単純でマウスに候補となる薬Aを投与します。その結果、薬Aの投与によってがんが小さくなりました。この実験により、実際に薬Aを飲むことでがんを小さくすることが証明できます。しかし詳細なメカニズムを知りたいときには、がん細胞に薬Aが直接作用したのか、薬Aが免疫系の細胞であるT細胞に作用し、T細胞を活性化させた結果がんが小さくなったのかはわかりません。

このように、「生体で起きることを評価できますがメカニズムを調べるためにはさらなる工夫が必要となるのが動物実験の特徴です。

マウスを用いた抗がん剤研究のメリットとデメリット

*マウスのイラストは「統合TV」のものを使用

がん細胞を使った抗がん剤研究

次に培養がん細胞を使った研究を考えてみます。

薬Aががん細胞にどのような影響を与えるか調べることにします。

培養しているがん細胞に薬Aを溶かした培地を添加します。その結果がん細胞が死滅しました。この実験により、薬Aは直接がん細胞に作用することでがん細胞を殺すことができることがわかります

一方でマウスやヒトに投与するまでは薬Aが実際に生体に効果を示すのかはわかりません。例えば生体内では「薬Aは代謝されやすく効果のない薬に変化してしまう」や「他の正常な細胞に作用して重大な副作用を示す」ことが起きるかもしれないのです。

培養細胞を用いた抗がん剤研究のメリットとデメリット

動物実験と細胞実験の組み合わせ

ここまでの話を聞いて気付いた人も多いかもしれませんが、動物実験と細胞実験を組み合わせることで多くのことを明らかにすることができます

先ほどの抗がん剤研究の例では、「動物実験で薬Aが実際にがんを縮小させる」ことがわかり、さらに「細胞実験で薬Aはがん細胞を死滅させる」ことが示されました。

これを組み合わせて考えると、薬Aはがん細胞に直接作用し生体投与したときに効果を示すということが証明できるのです。このように動物実験と細胞実験はうまく組み合わせて使っていくことが重要となります。

ぜひ「動物実験」と「細胞実験」のメリットとデメリットを考えて実験計画を組み立ててみてください。

細胞実験と動物実験の組み合わせにより様々なことを証明できる

*マウスのイラストは「統合TV」のものを使用

まとめ

この記事では、培養細胞と実験動物を使った実験の比較を行ってきました。

細胞実験

・細かいことを調べることができる

・作業が比較的簡単

・生体内で起きている現象と異なる可能性がある

動物実験

・生体内で起きていることを検証できる

・細かいことを調べるのが難しい

・準備に時間がかかる

以上をふまえて、ぜひ目標とするような素晴らしいデータを取ってくださいね。

この記事を読んだあなたの成果をいつの日か耳にできることを楽しみにしています。

「培養細胞を使った実験の基礎についてもっと勉強したい!」という人は「【細胞培養初心者向け】細胞培養の基礎知識を解説!」に細胞培養の基礎を幅広くまとめているので参考にしてくださいね。

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