実験原理解説

細胞培養でのトリプシン処理について【方法・注意点・原理を解説します】

・トリプシンを使うとなぜ細胞をはがすことができるのだろう?

・トリプシンってどうやって使うの?注意することはなに?

・トリプシンはどうやって調整するの?

細胞培養を始めたけど「トリプシンってなんだろう?」と思っているあなた。

この記事を読めば

・トリプシンを使う意味

・トリプシンの使い方と注意点

・トリプシンの調整方法

がすべてわかります。

トリプシンを使う理由

トリプシンは細胞培養では主に細胞をディッシュやシャーレからはがすために使います。

接着細胞(ディッシュにはりつく細胞)の継代ではトリプシンは必須です。

トリプシン処理でなぜ細胞がはがれるのか

トリプシンの役割

トリプシンはプロテアーゼ(タンパク質を分解する酵素)の1種です。

トリプシンは多くの種類のタンパク質を分解することができます。

継代の時にはディッシュに接着するのに使っているタンパク質や、細胞同士の接着に必要なタンパク質をトリプシンが分解することで細胞がはがれるのです。

具体的には

・インテグリン:ディッシュの接着に重要なタンパク質

・カドヘリン:細胞同士の接着に重要タンパク質

が分解されているのです。

トリプシン処理で細胞がはがれるメカニズムの説明

トリプシンについて詳しく知りたい人はこちら(外部リンク)

インテグリンやカドヘリンについて詳しく知りたい人はこちら(外部リンク)

EDTAの役割

トリプシンと一緒にEDTAを使っている人も多いのではないでしょうか。

EDTAとはエチレンジアミン四酢酸のことでCa2+やMg2+のような二価の金属イオンをキレートする化合物です。

先ほど説明したインテグリンとカドヘリンはCa2+やMg2+が存在することで細胞をディッシュや他の細胞と接着させることができます

そのためトリプシンとEDTAを一緒に使うことで効率よく細胞をはがせるのです。

トリプシン処理の方法・注意点

ここではトリプシン処理の方法と注意点を解説します。

しっかり覚えて正しくトリプシンを使い、事前にトラブルを防ぎましょう。

トリプシン処理方法

以下にトリプシン処理のプロトコルを記すので参考にしてください。

1.ディッシュの培地をアスピレーターで除去する

2.PBS(-)などCa2+やMg2+を含まないバッファーで洗浄する

3.トリプシンをディッシュに加える(10cmディッシュだと約2mLで十分)

4.2~10分インキュベートする。

5.顕微鏡でほとんどの細胞が丸くなっているのを確認する

6.ディッシュを軽くたたき細胞をはがす

7.血清入りの培地かトリプシンインヒビターを加える

8.実験に合わせて次の操作を行う

リプシンを使うときの注意点

トリプシンを使う注意点を「トリプシンを効果的に作用させるためのポイント」と「細胞にダメージを与えないためのポイント」の2つに分けて紹介します。

トリプシンを効果的に作用させるためのポイント

トリプシンを効果的に作用させるためのポイントは

・トリプシンを加える前の洗浄をしっかり行う

・洗浄に使うバッファーにはCa2+やMg2+を含まないものを使う

この2つです。

理由を説明しますね。

細胞の培養に使う培地はFBSに代表される血清を添加して使います。

血清の中にはトリプシンインヒビターというトリプシンの機能を阻害する物質が入っているので、しっかり洗浄をして血清を除去しておかないとトリプシンが上手く働かずに細胞がはがれません。

興味がある人は一度洗浄をせずにトリプシンを加えてみてください。全く細胞がはがれないことがわかると思います。

次に洗浄にCa2+やMg2+を含まないバッファーを使う理由を説明します。

これはCa2+やMg2+がインテグリンやカドヘリンによる細胞の接着を強めるためです。

インテグリンやカドヘリンの機能を弱めることで細胞をはがすので、Ca2+やMg2+が含まれていると細胞がはがれにくくなってしまうのです。

細胞にダメージを与えないためのポイント

トリプシンは細胞をはがすのに便利なのですが、正しく使わないと細胞がダメージを受けてしまい実験が上手くいかなくなってしまいます。

トリプシンは多くのタンパク質を分解するため、必要以上に作用させることにより細胞の生存に重要なタンパク質も分解されてしまい細胞がダメージを受けるのです。

細胞のダメージを防ぐ方法が以下の2つです。

・トリプシンを処理したあとに細胞のようすを観察し、細胞がはがれたらすぐに次の工程にうつる

・細胞がはがれたら、血清入りの培地かトリプシンインヒビターを加える

理由を説明します。

素早く次の工程に移るのは、トリプシンが長く作用すればするほど細胞がダメージを受けるため、必要最低限の時間で済むようにするためです。

必要最低限の時間を見極めるために、慣れるまではしっかり細胞のようすを観察するようにしましょう。

血清入りの培地やトリプシンインヒビターを入れるのは、その後の工程中にトリプシンが働くのを抑えるためです。

血清にはトリプシンインヒビターが含まれているので、血清入りの培地を入れるか直接トリプシンインヒビターをいれます。

血清を直接入れるとコストが高くなりすぎるため、培地で薄めた血清を使います。少しでも血清が含まれていたらトリプシンを抑えるのには十分です。

以上が理由になります。トリプシン反応後に培地を入れるのはトリプシンを薄めるためだと思っていた人も多いのではないのでしょうか。重要なのはトリプシンインヒビターなので、血清が入っていない培養を加えてもほとんど意味がありません

トリプシン調整方法

0.25%トリプシン + 1mM EDTA/PBS(-)の作り方

1. 4℃でトリプシン2.5 gとEDTA-2Na 0.37 gをPBS(-) 1 Lに溶かす。

*溶けにくいため少し時間がかかる。

2. 0.2 µmのフィルターでろ過する。

*トリプシンは酵素なのでオートクレーブはできない。

3. 適度な量に分注する。

4. -30℃にて保存する。

5. 一度使用したものは4℃で保存する。1ヶ月くらいで使いきること。

調整済みトリプシンの紹介

比較的安価に調整済みのトリプシン溶液も手に入るので、こちらを使ってもよいかと思います。

トリプシンEDTA溶液(富士フィルム-和光純薬)

2.5 g/L-トリプシン/1mmol/L-EDTA溶液(ナカライテスク)

Trypsin/EDTA Solution(GIBCO)

まとめ

トリプシンをなぜ使うのかや注意事項がわかったかと思います。

トリプシン一つとってみても奥が深いので、しっかり勉強して正しい細胞培養ができるように頑張ってくださいね。

細胞培養の基礎知識全般を抑えたい人は「【細胞培養初心者向け】細胞培養の基礎知識を解説!」をご覧ください。

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