- 免疫染色したけどうまく染まらなかった
- 抗原賦活化ってなに?メリットを知りたい
- 抗原賦活化の具体的な方法や注意点を知りたい
こんな悩みや疑問を持っている人に向けて
抗原賦活化の「原理」と「方法」を初心者向けにわかりやすく解説します。
ただし、抗原賦活化は少し難しく注意点があるのでしっかり勉強してから試してみてください。
また抗原や抗体との相性があるため抗原賦活化を試してみるまでは
- よく染色されるようになるのか
- 染色されにくくなるのか
- 染色が変わらないのか
は正直誰にもわかりません。
ただ染色性を向上させたいときには確実に選択肢の一つにはなるので、知っておくべき手法であるのは間違いありません。
抗原賦活化とは何か
抗原賦活化とは「ホルマリンなどの固定によるタンパク質の立体構造をときほぐし、抗体が目的タンパク質に結合できるようにすること」です。
この説明ではわからない人も多いと思うので、順を追ってわかりやすく解説していきます。
- ホルマリン固定
- エピトープ
- 抗原賦活化
の3つについて説明していきます。
ホルマリン固定
ホルマリン固定とはタンパク質を安定化させるための操作です。
- ホルマリン:
ホルムアルデヒド溶液のこと - PFA(パラホルムアルデヒド):
ホルムアルデヒドが重合したもの。
PFAからホルマリンを作成することができる。
よく臓器をホルマリン漬けにすると聞くと思いますが、臓器を長期保存するためにホルマリン漬けにし、タンパク質を安定化させて腐らせないようにしているのです。
ホルマリン固定では、ホルムアルデヒドのアルデヒド基がタンパク質のアミノ基に結合し架橋していくことで、タンパク質の構造が変化し固定されていきます。
ホルマリン固定で
- 組織・臓器を安定化させることができる
- タンパク質の構造が変化してしまう
エピトープ
次にエピトープについて説明します。
抗体は
- 抗原の全体を認識するわけではなく
- 抗原のごく一部分だけを認識する
- 同じタンパク質に対する抗体でも認識する部分が異なる
という性質を持っています。
エピトープとは「抗体が認識する抗原の一部分」のことをさします。
つまり上記を言い換えると以下のようになります。
- 抗体は抗原の全体を認識するわけではなく、エピトープを認識する
- 同じタンパク質に対する抗体でも、抗体によってエピトープが異なる

抗原賦活化
それでは「ホルマリン固定」と「エピトープ」がわかったので、いよいよ抗原賦活化について説明します。
免疫染色用に組織を用意するときにはこれまで説明したように、組織を安定化させるためにホルマリン固定を行うことが多いです。
しかしホルマリン固定を行うことでタンパク質の構造が変化してしまします。
タンパク質は立体構造を持っているので、タンパク質の種類によっては固定による構造変化によってエピトープがタンパク質の内部に位置してしまい、抗体がエピトープに近づくことができなくなってしまうのです。
このため目的のタンパク質が存在するのにも関わらず、抗体が結合できず染色ができないといった結果を招いてしまうのです。
抗原賦活化はホルマリンによるタンパク質の架橋を解消しエピトープを露出させる方法です。
つまりホルマリン固定によって染色されなくなったタンパク質も、抗原賦活化を行うことで染色することが可能となるのです。

抗原賦活化は必ず行ったほうがよいのか
それではとりあえず抗原賦活化を行えば全ての実験はうまくいくのでしょうか。
答えはNOです。
簡単にいうとエピトープに抗体が結合できれば免疫染色はうまくいきます。
しかし実際は以下の問題があります。
- 立体構造が不明なタンパク質は大量にある
- ホルマリン固定によってどのようにタンパク質の構造が変化するかわからない
- 抗原賦活化によってもタンパク質がどう構造変化するのかはわからない
つまり
- ホルマリン固定をしてもエピトープが露出している
- 抗原賦活化によってエピトープが露出する
- 抗原賦活化をしてもエピトープが露出しない
- ホルマリン固定をしてもエピトープが露出しているが、抗原賦活化によりエピトープが露出しなくなる
といったあらゆる可能性が考えられ、これは実際に実験を行ってみるまでわからないのです。
従って抗原賦活化は万能ではなく、抗原賦活化を行うことでよく染色されるようになることもあれば、逆に染色されなくなることもあります。
実験前に抗原賦活化をした方がよいかを知るためには、あなたが使用するのと全く同じ抗体を使った人を探し
- 抗原賦活化をしているのか
- 抗原賦活化はどんな方法で行っているのか
- 固定はどのような方法を採用しているのか
をあらかじめリサーチするしかありません。
抗体の添付文書にも抗原賦活化の方法が載っていることも多いので、ぜひ確認してみてください。
以下に私が抗原賦活化を行い、染色が良くなったものと悪くなったものの画像を貼っておくので、抗原賦活化の効果を実際のデータで確認してみてください。
抗原賦活化の具体的な方法
抗原賦活化の方法には大きく分けて
- 加熱処理
- 酵素処理
の2種類があります。
加熱処理では熱を加えることにより
酵素処理ではタンパク質分解酵素を使うことにより抗原賦活化を行います。
一般的には加熱処理の方が再現性があり条件設定がしやすいので、先ずは加熱処理による抗原賦活化を試してみるのをおすすめします。
加熱処理
加熱処理により抗原賦活化を行います。
英語ではHIER(Heat-Induced Epitope Retrieval)とも言います。よく使う用語なので、出来れば覚えておきましょう。
よく使われる不活化剤
- 精製水
- 10 mMクエン酸バッファー(pH=6.0)
- 1 mM EDTA溶液(pH=8.0)
- Tris-EDTA溶液(pH=9.0)
賦活化剤 | 賦活化の強さ | 組織のダメージ |
精製水 | 弱い | 小さい |
クエン酸バッファー | 普通 | 普通 |
EDTA溶液 | 強い | 大きい |
Tris-EDTA溶液 | 強い | 大きい |
加熱方法
- オートクレーブ
- 温浴
- 電子レンジ
オートクレーブ
- 賦活化剤を耐熱容器にいれ、スライドガラスを浸す
- オートクレーブ内で120℃、10分加熱をする
- 自然に冷まし70℃になったらオートクレーブから取り出す
- 室温で30分静置する
- 次の工程に移る
温浴
- 温浴を事前に90℃にしておく
- 賦活化の30分前には耐熱容器に賦活化をいれ、温浴内で温めておく
- 切片を耐熱容器内の賦活化に浸し、40分インキュベートする
- 耐熱容器を温浴から取り出し、室温で30分静置する
- 次の工程に移る
電子レンジ
- 賦活化剤を耐熱容器にいれ、スライドガラスを浸す
- 電子レンジ(500~700W)で加熱
- 沸騰してから10分処理を続ける(約20分程度)
*沸騰により液量が減少した場合はあらかじめ温めておいた精製水を加える
*しっかり蓋をするのは危険。蓋をする場合は穴など空気の逃げ道のあるものを使用すること! - 加熱終了後30分室温で静置し冷ます
- 次の工程に移る
酵素
タンパク質分解酵素処理により抗原賦活化の賦活化を行います。
加熱法でうまく抗原賦活化ができないときに、タンパク質分解酵素処理を行うことでうまく抗原賦活化ができることもあります。
しかし
- 組織の損傷が大きい
- 正確な実験をするために細かく条件を決めないといけない
といったように、難しい手法なので先ずは加熱を試してみるのをおすすめします。
タンパク質分解酵素の例
- トリプシン (0.1% w/v in PBS)
- ペプシン (0.4% w/v in 0.01N HCl)
- プロテイナーゼK (0.001% w/v in PBS)
まとめ
この記事をまとめます。
- ホルマリン固定によってタンパク質の構造が変化しエピトープに抗体が結合できなくなることがある
- 抗原賦活化によりタンパク質の架橋をほぐすことでエピトープを露出させる
- 抗原賦活化の方法には「加熱処理」と「酵素処理」の2種類がある
- 先ずは加熱処理を試してみるのがおすすめ
今回説明したように免疫染色が上手くいかないときの解決方法の一つとして抗原賦活化は非常に強力な手法です。
抗原賦活化には様々な方法があるので、ぜひしっかり理解して、あなたの研究対象に最適な条件を見つけてみてください。



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