- 免疫染色をするんだけどブロッキングって必要なの?
- ブロッキングって結局なんのために行うの?
- なぜ一次抗体と同じ動物の血清を使ってはいけないのか知りたい
免疫染色をするときに必ずブロッキングをすると思いますが、理由や注意点がわからずにブロッキングを行っている人も多いのではないでしょうか。「ブロッキングを行う理由や注意点」に関する正しい知識がないまま実験を行うとトラブルにつながってしまうこともあります。
私、Hiroは(@THiro70217938)現在は大学で助教をしています。学生時代から今まで免疫染色を10年ほど行ってきて、多くの学生にノウハウを教えてきました。
そこでこの記事では、免疫染色に慣れていない学生に向けて「ブロッキングを行う理由」「ブロッキングを行うときの注意点」について図解を用いてわかりやすく解説します。
この記事を読めば「免疫染色におけるブロッキングの基本事項」を理解することができ、「ブロッキングに関するトラブルが起きる可能性」をぐっと減らすことができます。
・ブロッキングは非特異的な染色を抑えるために行う
・ブロッキングで抗体の非特異的な反応を抑えることができる
・ブロッキングには一次抗体のホストと同じ動物の血清を使ってはいけない
免疫染色でブロッキングが必要な理由
免疫染色でブロッキングを行うのは「目的以外の物質が非特異的に染色されることを防ぐ」ためです。
まずは
・なぜ非特異的な染色がおきるのか
・ブロッキングでどうして非特異的な染色を抑えられるのか
について説明します。
抗体は目的の以外の物質と非特異的に反応する
免疫染色をした時に、なぜ非特異的に染色されるのか。
それは抗体が目的の物質以外にも非特異的に結合するからです。
「えっ。抗体って目的の物質に特異的に結合するんじゃないの?」と思った人も多いと思います。講義では抗体は目的の物質にだけ結合すると教わると思いますが、実はそのほかにも色々な物質と結合してしまいます。
抗体が結合した場所はすべて染色されるので、抗体の非特異的な反応が起きると目的の物質以外が染色される「非特異的な染色」が起きてしまうのです。

ブロッキングで抗体の非特異的反応を抑える
抗体が非特異的に反応することで、免疫染色をしたときに非特異的な染色がされてしまいします。
この非特異的な染色を防ぐためにブロッキングを行います。
ブロッキングをすることで
・抗体と目的の物質の結合に影響せずに
・抗体と非特異的な物質の反応を抑える
ことができ、非特異的な染色だけを抑えることができるのです。
血清は非特異的な染色を抑える効果を持っていることから、ブロッキングによく用いられています。実際に世界中の多くの研究者が血清を使ってブロッキングを行っています。
*血清とは…血液を凝固させたあとの上澄み液のこと。(次の項目で詳しく説明します。)

ブロッキングに血清を使う理由
それではなぜブロッキング血清がよく使われるのでしょうか。
ここでは血清を使う理由を解説します。
血液を凝固させたあとに遠心分離を行うと以下の2層に分かれます。
・血清…液体成分を含んだ層
・血餅…細胞と凝固因子を含んだ層
血清中には水やタンパク質などが含まれています。
血清に含まれるタンパク質である抗体がブロッキングに必要不可欠なのです。

また抗体が出てきて混乱している人もいるかもしれません。しかしこれはすごく理にかなっているのです。
ブロッキングは抗体の非特異的な反応を抑えるために行うのでしたね。ここで言う抗体とは一次抗体のことです。一次抗体が非特異的に反応するということは、当然他の抗体も反応するわけです。つまり一次抗体を反応させる前に血清を反応させることで、血清中の抗体が非特異的に反応する場所を全てふさいでくれるのです。これによって一次抗体は非特異的な反応をすることができなくなります。
血清を反応させることで、抗体が非特異的に結合しやすい場所をあらかじめふさぐ(ブロックする)ことができる

ブロッキングをするときのタブーとは
ここからは少し応用的な内容になります。しかし免疫染色を行う上では知っておいてほしい内容になるので、頑張って勉強してみてください。
まず結論だけいうと
ブロッキングには一次抗体のホストと同じ動物種の血清を使ってはいけない
という注意点があります。
これを守らないと組織の至る所が染色されてしまい、悲惨な結果が出てしまいます。
・ホストってなに?
・注意点の意味が全く分からない
という人にも分かりやすいように、基礎知識から説明してきます。

タブーを理解するための基礎知識
上記のタブー・注意点を理解するために「ホスト」と「抗体の構造」について解説していきます。関わりがないように思うかもしれませんが、説明を読み終わるときには頭がスッキリしているはずです。
ホストとは抗体を作る動物種のこと
私たちの実験には、ウサギ・マウス・ヤギなどの動物に作らせた抗体を使っています。抗体を作らせた動物種をホスト(宿主ともいう)といいます。
ウサギに作らせた抗体の場合は、抗体のホストはウサギになります。
余談ですが、動物にどうやって抗体を作らせるかを簡単に説明します(興味がない人は飛ばしてください)。
抗体を動物に作らせるイメージですが、これは私たちが予防接種を受けるのを想像してみてください。
予防接種ではウイルス抗原を投与することで、体内でウイルス抗原に対する抗体が産生されます。この反応は動物でも同じように起きます。したがって、実験動物に目的の物質を抗原として投与することで、動物の体内で目的の物質に対する抗体が作られるのです。あとは動物から抗体を精製し実験に使用します。

抗体の構造には可変領域と定常領域がある
次に基礎知識として抗体の構造について簡単に説明します。
抗体の構造は大きく分けると
・可変領域…抗原と結合する。種類が多い。
・定常領域…抗原とは結合しない。種類が少ない。
の2か所に分けられます。
可変領域は抗原と直接結合する部分です。可変領域は抗体によって構造が異なり、その種類は天文学的な数字になります。このように多様な可変領域性が存在することにより、様々な抗原に結合する抗体を作られるのです。
一方で定常領域は数種類しかなく、抗体によってあまり構造が変化しません。定常領域領域は抗原との結合には関わりません。
この可変領域と定常領域の違いは、免疫染色を理解するうえで重要なので、ぜひ押さえておいてください。

二次抗体は一次抗体の定常領域を認識する
ここまでで、抗体には可変領域と定常領域があることを説明してきました。
二次抗体は一次抗体を認識する抗体のことで、二次抗体は可変領域と定常領域のうち定常領域を認識します。

二次抗体には一次抗体のホストに対応したものを使う
定常領域は種類が少ないのですが、ホストによって微妙に構造が異なります。
つまりホストがウサギの抗体とヤギの抗体では定常領域が若干異なるのです。
二次抗体はこの微妙な差を見分けます。なので一次抗体のホストがウサギの時にはウサギ抗体に対する二次抗体を、一次抗体のホストがヤギの時にはヤギ抗体に対する二次抗体を使う必要があります。
この組み合わせを間違えると二次抗体が一次抗体に結合してくれず、染色がうまくいきません。

ホストと同じ動物種の血清を使ってはいけない理由
・ホストとは抗体を作らせる動物種のこと
・二次抗体は一次抗体の可変領域に結合する
・ホストに対応した二次抗体を使わないといけない
ここまでの内容が理解できればブロッキングのタブー「ホストと同じ動物種の血清を使ってはいけない」理由がわかります。
では具体例をもとに考えてみましょう。
ここではホストがヤギの抗体を一次抗体に使う場合をイメージしてみます。この時ブロッキングに使ってはいけないのがヤギ血清になります。
まずヤギ血清でブロッキングを行うと、ヤギ血清に含まれる抗体が非特異的に抗体が結合する部位をブロックしてくれます。このあとに一次抗体を入れ目的の物質に一次抗体を結合させます。
ここからが問題で、ヤギ抗体に対する二次抗体を加えると一次抗体にだけでなく、ブロッキングに用いたヤギ血清に含まれる抗体にも二次抗体が結合します。つまりせっかくブロッキングをしたのに、ブロックした場所も結局染色されてしまい非特異的な染色が起きてしまうことになるのです。これがホストと同じ動物種の血清を使ってはいけない理由です。
この時一時抗体のホストと血清の動物種を違うものにしていれば、二次抗体がブロッキングに使われた抗体に結合することはありません。
ここをしっかり押さえておかないと、非特異的に染色されてしまい実験が進まなくなってしまいます。ぜひ正しい知識を身に着けておいてください。

まとめ
以上ブロッキングを行う理由と、ブロッキング時のタブー・注意点について解説しました。
簡単にまとめます。
・ブロッキングは目的以外の物質が非特異的に染色されるのを防ぐために行う
・ブロッキングには血清を使う
・血清に含まれる抗体をあらかじめ非特異的な部位に結合させることがブロッキングの目的である
・ホストとは抗体を作っている動物種のこと
・抗体には可変領域と定常領域があり二次抗体は定常領域に結合する
・ブロッキングには一次抗体のホストと同じ動物種の血清を使ってはいけない
・ブロッキングに一次抗体のホストと同じ動物種の血清を使うと、二次抗体が血清に含まれる抗体にも結合し、非特異的に染色されてしまう
今回のブロッキングの内容は教えてもらう機会は少ないのですが、非常に大切な内容です。
ぜひしっかり理解して、免疫染色を行ってくださいね。
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