免疫染色をするときに
- 過酸化水素ってなんのために使うの?
- 内因性ペルオキシダーゼって何のこと?
- どんな時にペルオキシダーゼのブロッキングが必要なの?
と疑問を持っている人に向けて、「わかりやすく図解をつかって」基礎を解説します。
ペルオキシダーゼ(HRP)を利用した酵素抗体法を使う人には必須の知識です。この記事で正しい知識をおさえて、実験のミスを減らすことができます。
具体的には以下の内容について解説します。
- 酵素抗体法について
- 内因性ペルオキシダーゼについて
- 内因性ペルオキシダーゼのブロッキングの原理と注意点
- 内因性ペルオキシダーゼのブロッキングの方法
酵素抗体法
酵素標識と蛍光標識
免疫染色では多くの場合は二次抗体に標識をし、標識物質を利用することで目的の物質の可視化を行います。
この標識は「酵素」と「蛍光」の2種類に分けることができます。
酵素で標識した二次抗体を使った染色を酵素抗体法と呼びます。
標識 | 可視化方法 |
酵素 | 酵素反応により基質を発色させる |
蛍光 | 蛍光を観察する |
表に示しているように
酵素標識の場合は酵素と基質による発色反応を利用して可視化を行います。
発色反応を起こすために一番使われるのがペルオキシダーゼです。
実験ではHRP(Horseradish peroxidase)がよく使われています。これは日本語では西洋わさびペルオキシダーゼといい、反応性と安定性が高いという性質を持っています。

ペルオキシダーゼによる発色反応
ペルオキシダーゼを使った発色では、DAB(ジアミノベンジジン)を基質にするのが一般的な手法です。
DABは無色の物質ですが、ペルオキシダーゼにより茶色の物質に変換されます。
これによって目的の物質を茶色に染色することができます。

内因性ペルオキシダーゼのブロッキング
ここまでで
- 酵素抗体法では二次抗体にペルオキシダーゼという酵素を標識する
- ペルオキシダーゼがDABを変換し茶色に発色させ可視化できる
ことを解説しました。
内因性ペルオキシダーゼとは
先ずは「内因性ペルオキシダーゼ」の説明をします。
実験の世界では、内因性とは「動物や細胞がもともと持っているもの」という意味があります。
つまり内因性ペルオキシダーゼとは動物がもともと体内に持っているペルオキシダーゼのことで、主には赤血球や好中球、マクロファージといった細胞が発現しています。
内因性の対義語は外因性で「人為的に動物や細胞に加えたもの」を指します。
免疫染色における外因性のペルオキシダーゼは二次抗体に人工的に標識したペルオキシダーゼ(HRP)になります。
内因性は内在性、外因性は外来性とも言われます。研究をする上でよく使われる用語なので覚えておきましょう。

内因性ペルオキシダーゼの影響
次に内在性ペルオキシダーゼが免疫染色に与える影響を説明します。
例えば抗原Aを持つ細胞を酵素抗体法で染色する実験を考えてみます。
この時、以下のステップで染色を行います。
- 抗原Aに一次抗体を結合させ、抗原Aを持つ細胞のみが標識される
- 一次抗体にペルオキシダーゼを標識した二次抗体を結合させる
- DABを添加し細胞Aを茶色に発色させる
しかしこの時、赤血球が存在していると赤血球には一次抗体も二次抗体も結合しませんが、赤血球はペルオキシダーゼを持っているので、ステップ3でDABを添加したときに、茶色に発色してしまいます。
このように酵素抗体法では、内在性ペルオキシダーゼを持っている細胞も同時に染色されてしまい、目的の細胞との区別がつかなくなってしまいます。

ブロッキングの意義
今まで説明したように、酵素抗体法でペルオキシダーゼを使う場合は、内在性ペルオキシダーゼの影響で実験をうまく行うことができません。
これを防ぐために、内在性ペルオキシダーゼを働かなくすることを内在性ペルオキシダーゼのブロッキングといいます。
過酸化水素を添加することでペルオキシダーゼを失活(不活性化)させることができます。
つまり以下のように、抗体を加える前にあらかじめ過酸化水素を処理することで内在性ペルオキシダーゼをブロッキングし、内在性ペルオキシダーゼの影響を気にすることなく染色を行うことができるのです。
- 過酸化水素により内在性ペルオキシダーゼをブロッキングする
- 一次抗体で目的の細胞を標識する
- ペルオキシダーゼで標識した二次抗体を一次抗体に結合させる
- DABを加えることで目的の細胞のみが茶色に発色する

ブロッキング時の注意点
ここでは内因性ペルオキシダーゼをブロッキングするときの注意点を1つ解説します。
端的に説明すると
二次抗体を加える前にブロッキングを終わらせる
ということです。
理由は簡単で、過酸化水素によって二次抗体に標識しているペルオキシダーゼもブロッキングされてしまうからです。
なので必ず、二次抗体を使う前にブロッキングを終わらせるようにしてください。
(逆にいうと二次抗体を加える前なら、ブロッキングはどのタイミングで行っても大丈夫です)

ブロッキング方法プロトコル
0.3%過酸化水素/メタノール溶液
過酸化水素をメタノールに溶かして0.3%にしたものを使用します。
調整した0.3%過酸化水素/メタノール溶液に切片を30分反応させてブロッキングを行います。
細胞膜表面上のタンパク質を検出する場合はメタノールによって、細胞膜が影響を受け、染色がうまくいかない場合があります。その場合は次に示す3%過酸化水素溶液を用いた方法を試してみてください。
- 0.3%過酸化水素/メタノール溶液を調整(用時調整)
- 0.3%過酸化水素/メタノール溶液で30分反応させる
- 精製水で5分程度洗浄する
3%過酸化水素溶液
精製水に過酸化水素を溶解して3%過酸化水素溶液を調整し、切片を5分間反応させます。
反応中に発生する気泡により、組織が損傷する可能性があります。
- 3%過酸化水素溶液を調整(用時調整)
- 3%過酸化水素溶液で5分反応させる
- 精製水で5分程度洗浄する
まとめ
以上「内在性ペルオキシダーゼのブロッキング」について解説しました。
簡単にまとめます。
- 酵素抗体法ではペルオキシダーゼで標識することが多い
- ペルオキシダーゼによってDABを変化して茶色に発色させる
- 内在性ペルオキシダーゼとは動物がもともと持っているペルオキシダーゼのことである
- 内在性ペルオキシダーゼも二次抗体に標識しているペルオキシダーゼと同じようにDBAを発色させてします
- 過酸化水素によって内在性ペルオキシダーゼのブロッキングができる
- 過酸化水素の処理は二次抗体を加える前に行う
今回の内容を知っておくと、ペルオキシダーゼを利用した免疫染色でミスをする可能性を大幅に減らすことができます。
ぜひしっかり復習して、免疫染色を行ってくださいね。
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