「免疫沈降法」って知ってますか?
免疫沈降法は抗体を利用して特定のタンパク質を濃縮する手法です。
免疫沈降法を使うことによって、タンパク質間の相互作用(タンパク質Aとタンパク質Bが相互作用しているのか)、タンパク質がリン酸化などの翻訳後修飾を受けているかを調べることができます。
原理が少し複雑なので、研究をはじめたての多くの学生が免疫沈降法でつまずくと思います。
よくわからないという方はぜひこの記事で勉強してみてくださいね。
図解を使って説明をしているので、まずは図解だけでも見てみてください。
免疫沈降法(IP: ImmunoPrecipitation)とは
免疫沈降法とは、いろいろなタンパク質が含まれているサンプルから、抗原-抗体反応を使って「特定のタンパク質を精製」する実験手法のことです。
免疫とは抗体を指します。
また、抗原-抗体の複合体を沈降させて分離・精製をすることから沈降法と名付けられています。
英語ではImmunoPrecipitationといい、IPと略されることが多いので覚えておいてください。

何を調べるときに使うのか
免疫沈降法はおもに
・タンパク質の相互作用
・タンパク質の修飾
を調べるときに使います。
例を挙げると
タンパク質の相互作用の解析では、タンパク質Aとタンパク質Bが結合しているのかを調べることができます。
またタンパク質の修飾の解析では、タンパク質Aがリン酸化されているのかを調べることができます。

免疫沈降法の原理
免疫沈降法でどのように「特定のタンパク質を精製」するのかを説明します。
免疫沈降法の工程は以下の5ステップに分けられます。
- タンパク質抽出液の用意
- 目的のタンパク質と結合する抗体を加える
- ProteinGやAを使って目的のタンパク質と抗体の複合体を精製する
- 目的のタンパク質を溶出する
- W.B.(ウエスタンブロッティング)で確認をする

タンパク質抽出液の用意
まずは、解析をするための組織や細胞を溶解し、タンパク質抽出液を準備します。
この抽出液を使って以下の工程を行っていきます。
目的のタンパク質と結合する抗体を加える
目的のタンパク質を分離・精製するために、タンパク質抽出液に抗体を加えます。
この操作によって、目的のタンパク質にのみ抗体が結合し「目的のタンパク質が抗体によってラベルされた状態」になります。
ProteinGを使って目的のタンパク質と抗体の複合体を精製する
目的のタンパク質の精製には「ProteinG」に代表される「抗体に結合するタンパク質」が使われます。
実際の作業にはProteinGにアガロースを結合させたものを使用します。
ProteinG-アガロースをタンパク質抽出液に加えるとProteinGが抗体に結合します。
この時抗体には目的のタンパク質が結合しているので
「ProteinG-アガロース-抗体-目的のタンパク質の複合体」が作られます。
アガロースが重しの役割を果たしてくれるので、このサンプルを遠心することで「ProteinG-アガロース-抗体-目的のタンパク質の複合体」が沈殿となります。
そこで上清を捨て沈殿を回収することで、いろいろなタンパク質が含まれた抽出液から目的のタンパク質のみを得ることができます。
目的のタンパク質を溶出する
次に2-メルカプトエタノールなどの「還元剤」が入ったバッファーを加えることで、抗体と目的のタンパク質とProteinGの結合がはずれ、バッファー中に目的のタンパク質を溶出することができます。
W.B.(ウエスタンブロッティング)で確認をする
得られたサンプルを用いてW.B.など目的の解析を行います。
前述した、「タンパク質の相互作用」や「タンパク質の修飾」を調べる場合にはW.B.を行います。
詳しくは次の項目で解説します。
免疫沈降法の使用例とデータの見方
それでは、免疫沈降法を使うとどのような解析が行えるのか、「原理」と「実際に得られるデータ」について以下の2つの例を見ていきましょう。
論文を読むときにもよく出てくるので、しっかりポイントを抑えましょう。
- タンパク質の相互作用
- タンパク質の修飾
タンパク質の相互作用
免疫沈降法を使うとタンパク質の相互作用を調べることができます。
タンパク質Aに対する抗体を使うと、タンパク質Aが精製できます。
この時、タンパク質Aとタンパク質Bが相互作用しているとどうなるでしょうか。
タンパク質Aを精製したときに、タンパク質Bがタンパク質Aと結合しているので、一緒にタンパク質Bが精製されることになります。
つまり、「タンパク質Aに対する抗体で免疫沈降を行ったときに、精製された他のタンパク質はタンパク質Aと相互作用している」ことがわかるのです。

実際の実験ではタンパク質Aに対する抗体で免疫沈降をしたあとに、W.B.を行いタンパク質Bが検出できるかを調べることで、タンパク質AとBが相互作用しているかを証明します。
*W.B.はタンパク質を分子量で分離し、抗体で目的のタンパク質を検出する実験手法
タンパク質Aに対する抗体で免疫沈降を行ったあとW.B.を行い
- タンパク質Bが検出できない → タンパク質AとBは相互作用していない
- タンパク質Bが検出できる → タンパク質AとBは相互作用している

タンパク質の修飾
免疫沈降法を使うと特定のタンパク質が修飾されているかどうかを調べることができます。
ここではリン酸化を例に解説します。
細胞からタンパク質抽出液を用意して、タンパク質Aのリン酸化状態を調べるとします。
W.B.で調べるときはリン酸化タンパク質に対する抗体を使います。
しかしリン酸化タンパク質は細胞内にかなり多くの数含まれているので、W.B.の結果では大量のバンドが検出されてしまいタンパク質Aがリン酸化されているのか判断ができません。
ここで免疫沈降法を使えばタンパク質Aを精製しほかのタンパク質を除去することで、W.B.で検出されるバンドはタンパク質Aかタンパク質Aと相互作用するタンパク質のみとなるため、タンパク質Aがリン酸化されているかを容易に判断することができるようになります。
*タンパク質Aのリン酸化状態のみを検出する抗体が存在する場合は免疫沈降法を使う必要はありません。

おわりに
始めは少し複雑に感じるかもしれませんが、よく使われる実験手法で論文にも説明なしでよくでてくるので、今のうちに覚えると今後の研究生活が楽になると思います。
忘れてしまったら、また見返してみてくださいね。
研究は「暗記」ではなく「理解」が大事なのでしっかり理解できるように勉強してみてくださいね。