分子生物学実験

ネステッドPCRの原理・利点・プロトコルを解説【nested PCRとは】

この記事では応用的なPCRの1つであるネステッドPCR(nested PCR)について解説します。

通常行われるPCRでは、常に目的のDNAを特異的に増幅できるわけではなく非特異的なDNAが増幅してしまうことがあります。

また発現量の低いDNAを増幅する場合にはうまく目的DNAを増幅できないといった問題もよく生じます。

ネステッドPCRはこれらの問題を解決するための、優れたPCR法です。

ネステッドPCRを行うことで、通常のPCRに比べて高い特異性で目的遺伝子を増幅でき、さらに遺伝子をより多く増幅することもできます。

ネステッドPCRは通常のPCRを少し改良しただけなので、簡便に通常のPCRの特異性を高めることができます。

目的遺伝子が増幅できなくて困っている人や、ネステッドPCRに興味がある人は、非常にシンプルな方法なのでぜひこの記事で勉強してみてください。

通常のPCR法について詳しく知りたい人は「PCRの原理を図解付きでわかりやすく解説【初心者向け】」を参考にしてください。

ネステッドPCRとは

通常のPCRでは目的の遺伝子とは異なる領域にプライマーが結合し、非特異的なDNAが増幅されるといった問題が生じることがあります。

PCR法における非特異的なDNA増幅

この問題を克服する方法の1つがネステッドPCRになります。

ネステッドPCRとは2セットのプライマーを使用し2段階でPCRを行うことで、通常のPCRに比べて、目的の遺伝子をより特異的に増幅することができる、低発現の遺伝子も増幅することができます。

 

ネステッドPCRのメリット

  • 目的の遺伝子を特異的に増幅できる
  • 低発現の遺伝子を増幅できる

 

それでは、ネステッドPCRの原理を説明します。

先ずは通常のPCRと同様の操作を行い、目的の遺伝子を増幅します。

次に最初のPCRで増幅した遺伝子を用いて2度目のPCRを行います。

この時使用するプライマーとして、1度目のPCRで使用したプライマーよりも目的の遺伝子の内側に結合するプライマーを設計しておきます。



ネステッドPCRに使用するプライマー

2度目のPCRにより目的の遺伝子が再度増幅されることになります。

1度目のPCRではプライマーは目的以外の遺伝子に結合し非特異的な遺伝子を増幅してしまうことがあります。

しかし増幅した遺伝子をテンプレートに再度PCRを行うと、2セットのプライマーとも非特異的な遺伝子に結合する可能性はかなり低いため、かなりの高確率で非特異的な増幅が起こらずに目的の遺伝子のみを増幅することが可能となります。

さらに、PCR反応を2度行うので低発現の遺伝子も増幅することができます。

ネステッドPCRの流れ

加えてこの手法では通常のPCRと比べて特別な試薬を使う必要がなく、プライマーを1セット追加するだけでよいので、誰でもほとんど手間をかけずに行うことができるというメリットもあります。

ネステッドPCRのプロトコル

ネステッドPCRのプロトコルを紹介します。

ここに記載しているプロトコルを参考に、各自で使っているポリメラーゼや機器、サンプルに応じてカスタマイズしてください。

 

PCR ~1回目~

1セット目のプライマーを用いて通常通りにPCRを行います。このときサイクル数は25サイクル程度とします。

PCR反応液やPCR条件は以下を参考にしてください。

 

~PCR反応液~

試薬 使用量 最終濃度
2x PCR buffer 25 µL 1x
2 mM dNTPs 10 µL 0.4 mM
10 µM フォワードプライマー(1セット目) 1.5 µL 0.3 µM
10 µM リバースプライマー(1セット目) 1.5 µL 0.3 µM
鋳型DNA X µL 200 ng程度
KOD FX(1.0 U/µL) 1 µL 1.0 U/50µL
11-X µL
合計 50 µL

 

~PCR反応条件~

  1. 94℃、2分
  2. 熱変性(Denature):98℃、10秒
  3. アニーリング(Annealing):(Tm-5)℃、30秒
  4. 伸長(Extension):68℃、1分/kb
  5. 2~4を25サイクル程度行う

 

PCR ~2回目~

1回目のPCRが完了したら、次に1回目PCRにより得られたPCR反応液を鋳型として2回目のPCRを行います。

このときプライマーには、目的遺伝子に対して1回目のプライマーより内側に結合するプライマーを使用します。

 

~PCR反応液~

試薬 使用量 最終濃度
2x PCR buffer 25 µL 1x
2 mM dNTPs 10 µL 0.4 mM
10 µM フォワードプライマー(2セット目) 1.5 µL 0.3 µM
10 µM リバースプライマー(2セット目) 1.5 µL 0.3 µM
1セット目のPCRで得られたPCR反応液 5~10 µL
KOD FX(1.0 U/µL) 1 µL 1.0 U/50µL
1~6 µL
合計 50 µL

 

~PCR反応条件~

  1. 94℃、2分
  2. 熱変性(Denature):98℃、10秒
  3. アニーリング(Annealing):(Tm-5)℃、30秒
  4. 伸長(Extension):68℃、1分/kb
  5. 2~4を35サイクル程度行う

 

参考論文

J Infect Dis . 1993 Jan;167(1):207-10

Diagnosis of rabies by polymerase chain reaction with nested primers



ネステッドPCRのメリット・デメリット

ネステッドPCRを行うメリットとデメリットについて説明します。

ネステッドPCRのメリットは以下に説明するように多く存在します。一方でデメリットは時間とコストがかかるというものですが、基本的には時間、コストともに2倍となっています。

PCRが上手くいかないときには、ネステッドPCRのデメリットはそこまで大きなものでないので、ぜひ選択肢の1つとしてネステッドPCRの利用を考えてみてください。

それでは以下にネステッドPCRのメリットとデメリットを列挙します。

 

メリット

  • PCRの特異性が高い
  • PCRの増幅量が高い
  • 系統解析や遺伝的多型解析などの研究に有効
  • GC の含有量が多い場合や、非特異的なバンディングの可能性が高い場合にもPCR効率を高めることができる
  • 低発現量の遺伝子の増幅に有効
  • がんやウイルス感染症の研究にも最適

 

デメリット

  • 時間がかかる(PCR1回分)
  • コストがかかる(PCR1回分の試薬代)
  • コンタミネーションの可能性が高い

微生物同定におけるネステッドPCRの使用例

ネステッドPCRの使用例として異なる病原体の系統解析や同定に有用な方法を紹介します。

ネステッドPCRは高感度であるため、サンプルに含まれるDNA量が低い場合でも、従来の PCR 技術では不可能であった増幅が可能であり、さらに特異性が高いことも特徴です。

今回の方法では、16Sおよび18S rRNAのユニバーサルプライマーを1回目のPCRに使用します。

この反応により多くの微生物の16Sおよび18SrRNAを増幅し、2回目PCRの鋳型として利用します。

次に1回目のPCRで増幅した16Sおよび18SrRNAを鋳型とし、微生物種に特異的な配列のプライマーのセットを用いて、それぞれの微生物種の16Sおよび18SrRNAを特異的二増幅します。

この手法により、低発現量の遺伝子を含むサンプル中に存在する微生物の量を定量的に測定し、最終的に微生物の種を同定することができます。

まとめ

ネステッドPCRは通常のPCRと比べて、特異性や増幅効率を高めることができる手法です。

さらにコストと手間が2倍かかりますが、そのほかに特別な機器や手技を必要としないために、誰でも導入しやすい手法で使い勝手が良いのがメリットです。

ぜひこの記事を参考にPCRが上手くいかないときに、ネステッドPCRを検討してみてください。

通常のPCR法について詳しく知りたい人は「PCRの原理を図解付きでわかりやすく解説【初心者向け】」を参考にしてください。

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