分子生物学実験

フェノール・クロロホルム抽出を図解付きで解説【原理・手順・試薬調製】

フェノール・クロロホルム抽出はDNAやRNAを精製する代表的な手法で、組織や細胞から抽出したDNAとRNAを精製するときには必ずと言っていいほど行う実験です。

そのため遺伝子を使用する実験を行う人は是非とも知っておきたい手法となります。

この記事ではフェノール・クロロホルム抽出を全く知らない初心者向けに図解を使ってわかりやすく解説をしていきます。

プロトコルや試薬の調製方法も説明しているので、参考にしてください。

  • フェノール・クロロホルム抽出とはなにか
  • フェノール・クロロホルム抽出の原理
  • プロトコルと試薬調製方法

フェノール・クロロホルム抽出とは

フェノール・クロロホルム抽出とは核酸(DNAとRNA)の精製をするときに用いる手法です。

細胞や組織などの生体サンプルから核酸を抽出するときにはタンパク質など他の物質も混ざるため、余計な物質を除去して核酸だけに精製する必要があります。

その名の通り、フェノールとクロロホルムを使うことで核酸を精製することができます。

DNAとRNAのどちらを精製するかによって、使用するフェノールのpHが異なるので注意してください。

原理

ここではフェノール・クロロホルム抽出でなぜ核酸を精製することができるのかを解説していきます。

フェノールを使用する理由

フェノール・クロロホルム抽出を行うときには、まず核酸抽出液にフェノールを加えます。

この時、水層とフェノール層の2層に分離します。

抽出液に存在する物質はそれぞれの持つ性質によって異なる層に移行するので、これを利用することで核酸を精製することができます。

具体的には、RNAは水層に移行しタンパク質は水層とフェノール層の間の界面に移行します。

DNAは使用するフェノールのpHによって移行する層が変化します。DNAは中性のフェノールを使う場合には水層に移行し、酸性のフェノールを使う場合はフェノール層に移行します。

そのため、DNAを精製するときには中性のフェノールを使用し、RNAを精製するときには酸性のフェノールを使用する必要があります。

【フェノール・クロロホルム抽出でそれぞれの物質が移行する層】

  • DNA…水層(中性フェノール使用時)
    フェノール層(酸性フェノール使用時)
  • RNA…水層
  • タンパク質…界面(水層とフェノール層の中間)
フェノールクロロホルム抽出-分離イメージ

ここからはなぜDNAがpHによって移行する層が変化する理由を解説します。

DNAとRNAはほとんど構造が同じなのですが、DNAではリボース(糖)に存在するOHの数がRNAと比べて1つ少ないのです。

酸性のフェノールを使用すると、DNAとRNAが持っているリン酸基の電離平衡はOからOHに偏り、リン酸基の電荷が打ち消されることでフェノール層に溶けやすくなります。

この時、RNAはリボースの部分にOHを持ち、DNAは持たないため、RNAはDNAとは異なり水層に移行することになります。

このため酸性のフェノールを使用したときにはDNAとRNAが異なる層に移行するのです。

中性のフェノールを使用したときには、リン酸基の電荷が保持されるためDNAとRNAは共に水層に移行します。

DNAとRNAの構造の違い

最後にタンパク質ですが、タンパク質を構成しているアミノ酸には疎水性のものと親水性の両方が存在し、タンパク質変性剤によって高次構造がときほぐれた状態のタンパク質は疎水基がフェノール層に親水基が水層に移行しようとするため、フェノール層と水層の界面に移行します。

クロロホルムを使用する理由

ここではクロロホルムを使う理由を解説します。

クロロホルムを使う理由はフェノールを水層から除去するためです。

フェノールはOH基を持っているので、フェノール層だけでなく水層(核酸溶液)にも一部移行して混入してしまいます。

フェノールはタンパク質変性作用を持つので、精製した核酸を使って逆転写やPCRなどを行うときに、混入しているフェノールによって酵素反応が阻害されてしまいます

このため水層に移行するフェノールはしっかり除去する必要があります。

クロロホルムは無極性であるため、水層にクロロホルムを加えることで水層にわずかに溶けていたフェノールがクロロホルム層に移行し、フェノールを除去することができます。

基本的にはクロロホルム処理を1~2回行うことで、ほとんどのフェノールを除去することができます。

フェノール・クロロホルム抽出でクロロホルムを加える理由

手順(プロトコル)

ここでは実際のフェノール・クロロホルム抽出の手順を説明します。

今までで説明したように、フェノール・クロロホルム抽出ではフェノールによってタンパク質など不必要な成分を除去し、クロロホルムによってフェノールの混入を防ぎます。

それでは手順を見てみましょう。

具体的な手順(プロトコル)

以下が具体的な手順となります。参考にしてみてください。

  1. 核酸溶液の体積を見積もる(おおよそでOK)
  2. 核酸溶液と等量のフェノールもしくはPCIを加える
  3. DNAの場合:中性フェノールもしくは中性PCIを使用
  4. RNAの場合:酸性フェノールもしくは酸性PCIを使用
  5. ボルテックスを行い激しく混和する
  6. 室温で12,000 gで5分間遠心する
  7. マイクロピペッター(ピペットマン)を用いて、水層を新しいチューブに移す
    *界面にはタンパク質が存在するため絶対に吸わないようにする
    十分量の核酸が得られる場合は水層を多少残しても問題ない
  8. 水層と等量のクロロホルムもしくはCIAを加える
  9. ボルテックスを行い激しく混和する
  10. 室温で12,000 gで5分間遠心する
  11. マイクロピペッター(ピペットマン)を用いて、水層を新しいチューブに移す
  12. 得られた水層を、アルコール沈殿など次の工程に使用する

具体的にイメージをしたい人は以下の動画を参考にしてください。動画中の赤い層がフェノール層、無色の層が水層、フェノール層と水層の間の白い層が界面(タンパク質が存在する)です。

*フェノール層は着色をしているため、いつも赤色になるわけではありません。

PCIとCIAとは

フェノールの代わりにフェノクロ:クロロホルム:イソアミルアルコールを25:24:1で混合させたPCIを用いる方法もあります。

またクロロホルムの代わりにはクロロホルム:イソアミルアルコールを24:1(DNA抽出用)あるいは49:1(RNA抽出用)で混合させたCIAを用います。

フェノールとクロロホルムの代わりにPCIとCIAを使うことで以下のメリットが得られます。

  • タンパク質やフェノールの除去が効率よく行える
  • RNaseをより強く阻害できる
  • 長いpolyAテールを持つRNAのフェノール層への移行を抑えられます。



試薬調製方法

フェノール・クロロホルム抽出に必要な以下の試薬の調製方法を紹介します。

  • 中性フェノール(DNA用)
  • 酸性フェノール(RNA用)
  • CIA
  • PCI

中性フェノール(DNA用)

必要な試薬

  • フェノール
  • 8-ヒドロキシキノリン
  • 2-メルカプトエタノール
  • 0.5 M EDTA(pH=8.0)
  • 0.5 M Tris-HCl(pH=8.0)
  • 0.1 M Tris-HCl(pH=8.0)

調製手順

  1. フェノール(結晶)約30 gを50 mLチューブに直接入れる
  2. 5 M Tris-HCl(pH=8.0)をチューブの9割くらいになるまで加える
    *Tris-HCl:フェノール=1:4くらいがよい
  3. 8-ヒドロキシキノリンを約0.03 g加える
    *8-ヒドロキシキノリンは溶けると黄色になる
  4. 65℃の温浴で温めてフェノールを溶かす
  5. しっかりふたを閉めて、5分ほど激しくチューブを手で持ってふる
  6. 2,000 rpmで5分間遠心する
  7. 上層の水層を除去する
  8. 5 M Tris-HCl(pH=8.0)を加えて15分振とうする
  9. 2,000 rpmで5分間遠心する
  10. 上層の水層を除去する
  11. 1 M Tris-HCl(pH=8.0)を加えて振とうする
  12. 2,000 rpmで5分間遠心する
  13. 上層の水層を除去する
  14. フェノールのpHをpH試験紙で確認する
  15. pHが8以上になるまで11~14の作業を繰り返す
  16. pHが8以上になったら以下の作業に移行する
  17. 1 M Tris-HCl(pH=8.0)を約10 mL加える
  18. 2-メルカプトエタノールを80 µL加える
  19. 5 M EDTA(pH=8.0)を80 µL加える
  20. 4℃あるいは-20℃で遮光保存する
    *4℃で約1ヶ月、-20℃で3ヶ月程度保存が可能

大量に調製したい場合はこちらの分量を参考に同様の作業を行ってください

  • フェノール:500 g
  • 8-ヒドロキシキノリン:0.5 g
  • 2-メルカプトエタノール :1.2 mL
  • 0.5 M EDTA(pH=8.0):1.2 mL
  • 0.5 M Tris-HCl(pH=8.0):1 L以上
  • 0.1 M Tris-HCl(pH=8.0):1 L以上

酸性フェノール(RNA用)

必要な試薬

  • フェノール
  • MilliQ(超純水)

調製手順

  1. フェノール(結晶)約30 gを50 mLチューブに直接入れる
  2. MilliQをチューブの9割くらいになるまで加える
  3. 65℃の温浴で温めてフェノールを溶かす
  4. しっかりふたを閉めて、5分ほど激しくチューブを手で持ってふる
  5. 室温以下に冷却して放置することで、水層とフェノールに分離する
  6. 4℃で遮光保存する

CIA

DNA用(24:1)

以下の2つを混ぜて調製する。

  • クロロホルム:48 mL
  • イソアミルアルコール:2 mL

RNA用(49:1)

以下の2つを混ぜて調製する。

  • クロロホルム:49 mL
  • イソアミルアルコール:1 mL

PCI

DNAとRNA用で同様の方法で調製する。

必要な試薬

  • フェノール:50 mL
  • クロロホルム:48
  • イソアミルアルコール:2mL
  • 0.1 M Tris-HCl(pH=8.0):約10 mL

調製手順

  1. フェノール、クロロホルム、イソアミルアルコールを混ぜる
  2. フェノールに溶けていた水分が分離し水層が生じる
  3. 適当な量の0.1 M Tris-HCl(pH=8.0)を加える
  4. 4℃で遮光保存(1ヶ月程度保存可能)

調製済み市販試薬

ここでは市販の試薬を紹介しています。

最近は上記の試薬を自分では調製せずに購入している研究室も多いと思います。

試薬購入の参考にしてください。

まとめ・関連記事

DNAとRNAを使用するときで使用するフェノールのpHが異なるなど、フェノール・クロロホルム抽出の工程は複雑です。

ぜひこの記事で勉強して、原理を理解したうえで実験を行ってください。

フェノール・クロロホルム抽出後には一般的にアルコール沈殿(エタノール沈殿)を行います。

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