分子生物学実験

なぜRNA発現量を調べるのか ~解説記事~

転写因子が臓器のRNA発現を規定する

この記事では、なぜRNA発現量を調べるのかについて基礎事項に絞って説明していきます。内容はおもに3つに分かれています。

遺伝子発現解析の意義

遺伝子発現解析とは、細胞や組織からRNAを抽出してRT-PCR (Reverse Transcription- Polymerase Chain Reaction)によってRNAの量を調べる実験になります。例えば、「健康な人」と「病気の人」のRNAの違いを調べることで病気の原因となっているRNA(遺伝子)が特定できます。他にも薬の効果や、臓器の特徴など様々なことを調べるために遺伝子発現解析が使われます。

RNAの違いが個体や臓器、細胞の性質を決定する

RNAを調べる理由をずばり一言でいうと「RNAの違いが個体・臓器・細胞の性質を決定している」からです。もちろんRNAの違いが性質の決定の全てではないですが、RNAが大きく関わっているのは間違いありません。

セントラルドグマ

「RNAの違いが個体・臓器・細胞の性質を決定している」を理解する上での、基礎知識としてここではセントラルドグマについて簡単に説明します。セントラルドグマとは遺伝情報の伝達の流れのことです。具体的には、DNA→RNA→タンパク質の流れで遺伝情報が伝達されていくことです(図1)。

DNA、RNA、タンパク質のそれぞれの役割は簡単にまとめると以下のようになっています。

  • DNA: 遺伝情報そのもの。よく生命の設計図とも呼ばれ、DNAに私たち個体の情報が記されている。
  • RNA:DNAとタンパク質の橋渡しを行う。
  • タンパク質:実行部隊。タンパク質(例えば酵素)が生命維持や細胞の活動のために実際に働く分子である。

ここで一つ用語の説明をします。DNAからRNAをつくる過程を「転写」(英語でTranscription)、RNAからタンパク質をつくる過程を「翻訳」(英語でTranslation)といいます。転写、翻訳についても基礎事項ですので覚えておいてください。

このように設計図であるDNAをもとにRNAを経由してタンパク質が産生され、タンパク質が働くことで私たちは活動しているということになります。つまりは、実行部隊のタンパク質をつくるためには必ず対応するRNAが作られるということになります。このセントラルドグマの概念は基礎事項かつ非常に重要ですので、しっかり理解しておいてください。

セントラルドグマの流れ

臓器ごとに持っているRNAが異なる

ここで実際にRNAを調べる重要性について、臓器の機能の違いがなぜうまれるのかについて話していきます。

ここでは心臓と肝臓を例にして考えてみます。

心臓と肝臓が全く違う臓器であることはみんなが知っていることだと思います。ではなぜ違いができるのかについて考えてみましょう。ここで先程のセントラルドグマの概念をつかっていきます。

まず、遺伝情報の最上流であるDNAですが、1人の人間は基本的には全身で全く同じDNAを持っています。

つまり、心臓と肝臓も違う臓器なのですが、持っているDNAの情報は全く同じで、DNAレベルでは差はありません。

次にRNAですが、ずばりこのRNAから臓器の差がうまれることになります。心臓と肝臓の違いは同じDNAからどのRNAを作るかの違いになります。

実際に実験してみると、心臓と肝臓が持っているDNAは全く同じですが、RNAに関しては全然違うパターンのRNAを持っていることが確かめられます。

そして持っているRNAが異なれば、当然持っているタンパク質が異なることになるので、臓器の働きに違いができるのです(図2)。

ここでは臓器の違いを例にして説明しましたが、病気の人と健康な人の差や、薬を飲む前後の差、体質の違いなども、このようにRNAの違いによってうまれてきます(もちろん違いの全てがRNAの差だけで説明できるわけではありません)。

従って、持っているRNAの種類や量の違いを明らかにすることで、生命の様々な違いの謎を解く手がかりを得ることができるのです。これが多くの研究で、遺伝子発現解析をする理由となります。

臓器の違いは持っているRNAの差によるものである

最後に、なぜRNAのレベルで変化が生じるのかについて簡単に説明をしていきます。

先ほどと同様に心臓と肝臓を例にします。臓器によって、持っているRNAが違うということは転写されるものが異なるということです。

これを決定しているのが「転写因子」と呼ばれるタンパク質になります。

転写因子とは特定のDNAの領域に結合して、その領域のDNAから対応するRNAを転写するのをサポートする因子のことで、転写因子のサポートなしには転写を行うことはできません。

そしてこの転写因子はすべてのDNAに結合するのではなく、特定のDNAを選んで結合します(選択性があるということ)。

つまりこれをもとに考えると、心臓は転写因子Xをもっていてこの働きにより、DNA-Xから、RNA-Xを転写し、肝臓は転写因子YをもっていてDNA-YからRNA-Yを転写するといったように、臓器で持っている転写因子が異なるために、同じDNAから異なるRNAが転写され、性質・働きの異なる臓器として機能するのです(図3)。

転写因子が臓器特有のRNA発現を決定する

最後に

以上がRNAの発現量を調べる理由となります。研究を始めたばかりの人には少し難しいかもしれませんが、この内容を頭に入れながら実験をしていくことで研究のクオリティーは確実に向上するので、なんとなくではなく背景の知識までを身に付けたうえで実験をしていくことをおすすめします。

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