分子生物学実験

RNA分解の原因と対処法【RNase・その他の要因への対策】

  • RNAって分解しやすいから注意しろって言われたけど具体的にどうするの?
  • RNAはなぜ分解するの?
  • RNAの分解を防ぐ方法や考えを教えてほしい!

RNAを使ってこれから実験していく人は上記のような悩みや疑問を持っているのではないでしょうか。

実際にRNAの取り扱いは難しく、正しい操作を心掛けないと簡単に分解してしまいます

この記事では、RNAをあまり扱ったことのない初心者向けに、RNAの分解を防ぐには具体的にどうしたらよいのかをやさしく解説します。

特にRNaseというRNA分解酵素がRNA分解の一番の原因になるので、主にRNaseについて説明をしていきます。

この記事でわかること

  • RNase(RNA分解酵素)はどこに存在するのか
  • RNaseへの対処法
  • RNase以外のRNA分解要素とその対策

RNA分解の原因

RNA分解の原因には主に以下の5種類があります。

  • RNase(RNA分解酵素)
  • 酸・アルカリ
  • 物理刺激
  • 紫外線(UV)

特にRNaseによるRNAの分解が最もよく起きるので、RNaseについてはしっかり勉強して適切な対処を行う必要があります。

その他の原因については熱には注意が必要ですが、問題になる頻度はRNaseに比べるとかなり低くなります。

RNase(RNA分解酵素)

RNaseはRNAを分解する酵素で「身の回りのあらゆる場所に存在する」、「不活性化されにくい」ことからRNAを扱う際には最も注意しなければならない相手です。

RNaseは「実験動物の体内」「実験者の汗や唾液」にも存在し「試薬や器具」にも混入している可能性が高いです。

RNaseの存在場所

  • 実験動物の体内
  • 実験者の汗や唾液
  • 試薬
  • 器具

ここからはRNaseに対して、「何を注意すればよいのか」、「どう対処するべきか」について、それぞれの存在場所ごとに解説します。

実験動物の持つRNase

人やマウスはRNAとRNaseの両方を持っています。

普通に考えると、普段から体内ではRNaseによってRNAが分解されているイメージをもつかもしれません。しかし人やマウスの体内ではRNAがRNaseによってすべて分解されるということはありません

ではなぜRNAを抽出するときにRNaseに注意しなければならないのでしょうか。

組織を摘出するときにはマウスを安楽死させます。

マウスを安楽死させることで細胞が死に、死んだ細胞では細胞膜が壊れて細胞内に存在していたRNAが細胞外に出てきてしまいます

細胞外では大量のRNaseにRNAがさらされ、すぐにRNAが分解してしまいます

このためRNAを組織から抽出するときには、実験動物の持っているRNaseに気を付けなければならないのです

それでは実験動物の持つRNaseに対する対策を解説していきます。

実験動物が体内に持つRNaseに対しては以下の対策を行います。

  • 組織の摘出を素早く行う
  • RNase阻害剤を含んだ溶液で組織をホモジナイズする

組織の摘出を素早く行う

実験動物が死ぬと実験動物の細胞も死に、RNAが細胞外に出ていきRNaseによって分解されていきます。

これを防ぐにはまず、素早く作業を行います。

当然ですがゆっくり作業を行うと、その間にRNAが分解されていくことになるので、作業の準備は事前に済ませて、できるだけスムーズに実験を行いましょう。

複数の実験動物から組織を摘出する場合は、一匹から組織を摘出し終わったらなるべく早く組織を-80℃に冷やして一時保存をすることでRNAの分解を抑えることができます。

組織(膵臓・皮膚など)によっては-80℃でもRNaseによってRNAが分解されるので、保存は一時的なものにしてすぐに次の工程に移ってください。

組織を冷やすときは以下の方法を使うと急速凍結をすることができます。
*慣れていないと事故が起きるかもしれないので、実験に慣れている人と一緒に行ってください。

  • 液体窒素に組織を入れたチューブを浸す
  • 事前に-80℃に冷やしたエタノールやアセトンに組織を入れたチューブを浸す
  • ドライアイスを入れて冷やしたアセトンに組織を入れたチューブを浸す

RNase阻害剤を含んだ溶液で組織をホモジナイズする

もう一つの工夫としては、RNase阻害剤を含んだ溶液中で、素早くホモジナイズすることです。

ホモジナイズとは「均一化する」という意味です。

「すり鉢」・「ホモジナイザー」・「ビーズクラッシャー」などで物理的に組織をすりつぶすことでホモジナイズを行います。

RNase阻害剤が入った溶液中でホモジナイズを行うことで、組織中のRNaseがRNase阻害剤と出合いRNaseが不活性化されます

この時しっかりホモジナイズを行わないと、RNase阻害剤によって不活性化されていないRNaseが存在することになりRNAが分解してしまいます。

従って、RNase阻害剤が入った溶液中で「素早く」、「しっかりと」ホモジナイズをすることが重要です。

ホモジナイズに使う溶液は一般的には以下のような市販品を使用します。研究室にあるものを使いましょう。

これらの試薬には「RNase inhibitor」というRNase阻害剤に加えて「チオシアン酸グアニジン」や「フェノール」といった強力なタンパク質変性剤が入っています。

RNaseは酵素(つまりタンパク質)なので、これらの作用により阻害・変性して働かなくなります。

以上の2つの対処法を押さえると実験動物がもつRNaseからサンプルのRNAの分解を防ぐことができます。

実験者のもつRNase

私たち実験者もRNaseを持っています。

実験中には主に「手」、「汗」、「唾液」からサンプル中にRNaseが混入します。

実際に実験者のRNaseがどれだけ影響するかがThermoFisherによって調べられています。

  • 検証1:グローブと素手で実験を行うと変化があるのか
    結果1:RNAの分解に差はなかった
  • 検証2:手の上にRNA溶液を15秒放置した後、室温に1時間放置する
    結果2:半分のサンプルでRNAが分解した
  • 検証3:RNA溶液に唾液を混ぜる
    結果3:RNAが分解した

この検証から慣れている実験者は素手でRNA実験を行っても問題ないが、サンプルに手が触れたり唾液が混入するとRNAが分解してしまうことがわかります。

実験に慣れてなくて不安だなと思う人は以下の対策を行いましょう。

  • マスク・グローブをして実験を行う
  • 実験中に会話をしない
  • 実験操作のクオリティーを高めてサンプルに手が触れないようにする

1つ目の対策は「実験中にマスクとグローブをつける」です。

マスクとグローブをすることで「手」、「汗」、「唾液」からのRNaseの混入を抑えることができます。

2つ目の対策は「実験中に会話をしない」です。

会話をしないことで唾液が飛びサンプルにRNaseが混入する可能性を減らします。

3つ目の対策は「実験操作のクオリティーを高める」です。

これはすぐには難しいかもしれませんが、実験を繰り返し実験操作に慣れることで不用意にサンプルに触れてRNaseを混入させるリスクを減らします。

皆さんは気づいていないかもしれませんが、実験に慣れていない学生は意外にサンプルに手が触れていることが多いです。不安な人は操作をいちど先生や先輩に見てもらってもいいかもしれません。

試薬に混入しているRNase

精製水やMilliQなど汎用試薬にもRNaseは混入しています。

ここでは以下の2つの対策を紹介します。

  • RNase free(RNaseが含まれていない)の試薬を購入する
  • DEPC処理を行う

RNase freeの試薬を購入する

これは簡単でRNase freeの試薬を購入して使います。RNase freeとは「RNaseが入っていない」という意味です。

少し割高ですが、確実にRNaseが含まれていない試薬を使って実験をすることができます。

ただし購入したときにはRNaseは含まれていませんが、使用しているときにRNaseが混入する可能性があるので、「正しく操作する」のはもちろんのこと、「試薬を少量ずつ分注をする」などRNaseが混入してもリカバリーができるように対策をしておきましょう。

DEPC処理を行う

2つ目の対策はDEPC処理です。

DEPCとはDiethylpyrocarbonate(ジエチルピロカーボネート)の略です。

DEPCはRNaseを不活化する働きを持っているので、使用する試薬にDEPCを処理することでRNaseを失活させRNase freeの状態にすることができます。

ただしDEPCを使うときには以下の2つの注意点があります。

  • TrisやHEPESはDEPCと反応するため、DEPC処理を行えない
  • DEPCには発がん性があるため、DEPC処理後にはDEPCを不活化する必要がある

TrisやHEPESはDEPCと反応するため、DEPC処理を行えない

DPECはバッファーによく用いられるTrisやHEPESを修飾してしまいます。

そのため、TrisやHEPESバッファー中に含まれるRNaseを不活化することができません。

このためRNAを扱うときのバッファーにはDEPCによって修飾されないPBSやMOPSをよく使用します。

DEPCには発がん性があるため、DEPC処理後にはDEPCを不活化する必要がある

DEPCには発がん性があると言われています。

そのためDEPCをそのまま使用すると、実験者は発がん性物質にさらされるリスクを伴います。

このためDEPCを試薬に処理してRNaseを失活させた後に、DEPCを含む試薬を121℃のオートクレーブで20分程度処理しDEPCを分解する必要があります。

このオートクレーブ処理は必ず行うようにしてください。

最後にDEPC処理の方法を記しておきます。実験の参考にしてください。

DEPCの処理方法

  1. 試薬に対0.1%濃度となるようにDEPCを加える
  2. 試薬ビンを振ってよく混ぜる
  3. 37℃で1時間あるいは室温で一晩DEPCを反応させRNaseを不活性化する
  4. オートクレーブを用いて121℃で20分処理しDEPCを分解する

この操作でRNase freeの試薬を作ることができます。

器具に混入しているRNase

使用する器具についても注意が必要となります。

研究室によってはRNA実験専用の「ピペットマン」「チップ」「チューブ」「部屋」などを用意する場合もあります。

このようになるべく汚染されている可能性の低い器具を使っていくのが確実な方法となります。

また私は使用するピペットマンや実験台にはRNase除去スプレーを使用しています。実際にどれだけ効果があるかはわかりませんが、使わないよりはいいかなと思っています。

使っているのはRNase Quiet(ナカライテスク)です。

またガラス器具は乾熱滅菌を行うことでRNaseを分解することができます。

必ず乾熱滅菌を行っておきましょう。

なおオートクレーブではRNaseは不活性化されないと言われているので注意してください。

その他の要因【熱・酸・アルカリ・物理刺激・光】

あとはそのほかの注意点となります。これらの項目によってRNAが分解されることはRNaseによる分解に比べるとまれです。

DEPCの処理方法

当然ですが熱を加えるとRNAは分解してしまいます。

RNAに熱を加えるシチュエーションとして最も多いのは、ホモジナイズです。

ホモジナイズに用いる機械によってはかなりの熱が発生します。

そのためはホモジナイズを行うときには、サンプルを常に氷で冷やしながら作業を行います。さらに氷水を使用する方がサンプルと接する面積が増加し、冷やす効率が上がるのでおすすめです。

酸・アルカリ

RNA溶液を極端な酸性、塩基性状態にするとRNAが変性してしまいます。

RNAを溶解するときには水やTE(Tris-EDTA)を溶液として使用し、pHをなるべく中性付近に保ちましょう。

物理刺激・紫外線(UV)

物理刺激や紫外線に関してはあまり気にする必要はありません。

しいて注意をするなら、サンプルに対してvortexやピペッティングを過度に行って物理刺激を与えすぎないようにするくらいですね。

最後に

以上の注意点を意識することで、RNAの分解のほとんどは回避することができます。

まずはRNaseに注意しながらしっかり対策を行いながら実験をしてみてください。

ある程度の慣れは必要なので、失敗しても原因を考えてめげずに再チャレンジしてくださいね。

「RNA実験についてもっと勉強したい!」という人はRNA実験の流れをこちらの記事にまとめているのでぜひ勉強の参考にしてみてください。

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